四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第三十一話
「ダルフェ! 止血の方法を教えてください! あと、せめて痛み止めとかっ……」
「痛み止め? 必要無いっつーか、血の流れを止めるとかえって組織再生の邪魔になる。出血量が多いのは、多分、再生が活発になったからだ。まぁ、放っておくのが一番だぜ?」
「……ダルフェッ……」

 その言葉に、私は唇を噛み締めた。
 放っておくのが一番なんて……そんなの、そんなっ……!
 あぁ、でも。
 ハクのことを私より知っているダルフェさんがそう言うのだから、それは正しいことで……でも、気持ちがついていかない!

「……泣く……な、りこ。……泣、くなっ……」

 涙の落ちた先にあるのは。
 ハクの血。
 私の涙を彼の血液が受け止め、包んで、混じり合う。

「……ぇ、ぇぐっ……ご、ごめんなさっ……」

 なにもできない私は、謝ることしか出来ない。

「なに……をあや、まる? り、こ……今の、この……我を、見られっ……るのは……き、れいでもっ、かわい、くっ……も、ない、我、なの、だっ……少し、待っ……くれ、ぬか?」
「ハクちゃっ……」
「治った、ら、風呂に……我は、汚い、のは……いやっ……りこ、に……い、やっ……なのだ……」

 言葉を、息を、途切れさせながら喋る貴方。
 こっちを、見てくれないのは。
 血に汚れた口元を、私になるべく見せないためなの?

「旦那……いじらしいっすけど、なんかずれてるっつーか……この状態で綺麗とか汚いとか、気にするのそこなんすか? 姫さん、この人ね。姫さんは綺麗なもの、可愛いものが好きなんだって、よく言うんだ。だからさ、血肉で汚れた姿なうえ再生中のグロい状態が丸見えじゃ、あんたに嫌われちまうかもって怖がってんだよ……最凶最悪の竜であるヴェルヴァイドを怖がらせるのは、この世であんただけだぜ?」

 ダルフェさんの垂れ目が、さらに下がった。
 彼は、微笑んでいた。
 その微笑みは、私に向けられたものではないと……視線で分かる。

「嫌うなんて、そんなこと……ないのに」

 綺麗じゃない?
 貴方は、いつだって……こんなに綺麗な、まっすぐな心を私にくれる。
 可愛くないからって、何?
 こんなに切なくて、可愛い事を言ってるくせに!?

「ば、馬鹿ねハクちゃっ……ハクはいつだって綺麗で可愛いのっ! ……ハク、ハクッ……ハクちゃっ……ダルフェ、ダルフェ!」
「姫さん?」

 ねぇ、どうして?
 どうしてまだ、治らないの!?
 世界一丈夫で頑丈なんだって、本人だけじゃなく皆も言ってたのに!

「ダルフェ! ハク、絶対変よ!? ……傷が、治らないなんてっ……」

 なぜ?
 なぜなの?
 ハクちゃんは再生能力が桁外れなんだって、皆が言ってたよね?
 なら、どうして治らないのよっ!?
 傷が塞がらないから、ハクがあんなに切なくて可愛くて……悲しいことを言うのよ!?
 私がいくら綺麗だし可愛いから大丈夫って言っても、ハクは信じない。
 ハク以前、大丈夫だって私が言っても小さな手をぎゅっと握って、爪を隠していた……すごく繊細な人だから……!
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