四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「いらっしゃいませ! ヴェルヴァイド様、トリィさん!」
「え!? あ、はい、お、お招きありがとうございます」
「……また、これ・・か」
転移した我とりこの眼の前には。
見覚えのある、黄色い物体がいた。
ダルフェの父親が黄色いひよこを模した扮装をし、立っていた。
「本日、ひよこ亭は貸し切りです! 楽しく美味しい時間お過ごしください!」
「……はい、ありがとうございます」
りこはこの四日間のうちに、この雄竜とは二度会っていた。
そのさいはまともなレカサを着用していたため、初めて見た奇抜な衣装に戸惑いを感じているようだった。
「エ、エルゲリストさんですよね!?」
「うん! これはね、陛下が作ってくれた僕の宝物なんだよ! トリィさんに自慢しようと思って着ちゃった!」
「そ、そうなんですか……」
ブランジェーヌは手先が器用だからな。
りこに受けるようなら、我にも作るように言おうと思っていたが……なんとも微妙な反応なので、我は要らぬ。ひよこの衣装より、ベルトジェンガより贈られた夜着のほうがよほど反応が良いのだ。
「申し訳ありません、義理父様。トリィ様をお席にご案内していただいてもよろしいでしょうか?」
「父さん! さっさと奥で着替えてこいよ。ったく、その格好じゃ厨房に入れないでしょうが!」
「じいじ、おきがえして! ねぇね、おっさん、いらっしゃいませね!」
ひよこ姿の舅の後ろにいたカイユは、セイフォンで着用していた侍女服を着て木製の丸盆を手にしていた。そのカイユに後ろから覆い被さるように両腕を回したダルフェの肩には、人型をとるようになった幼生が……これは、肩車という状態だろうか?
「うん、カイユちゃん。ちょっと待って、ダッ君! トリィさん、ヴェルヴァイド様、こちらへどうぞ!」
ダルフェの父親は小走りで店内中央へと我とりこを導いた。
長方形の木製のテーブルに背もたれのない椅子……丸太を加工したものか?
素朴な作りのそれらを見たりこの眼が、輝いた。
「わぁ、素敵! すごく可愛いテーブルセットですね!」
「ありがとう! ダッ君……すぐ着替えてくるから、睨まないでよ~。トリィさん、すぐに美味しいご飯を作るから待っててね!」
「はい、ありがとうございます。ハクちゃんも座ってね」
椅子に腰を下ろしたりこは、立って周囲を眺めていた我の袖を引いて隣に座るように促した。
「うむ、分かったのだ」
腰を下ろした我に、りこが言った。
「素敵なお店ね! 温かみのある内装で、すごく居心地が良い……」
「そうか、気に入ったのなら良い」
ダルフェの父親の店は、決して広いとは言えず……客は十数人しか入れぬだろう。
華美さは全くないが掃除が行き届き清潔で、奥にある厨房がよく見えた。
漆喰の壁も天井も、店内の内装も……この店は、ダルフェが幼竜の頃より変わっていない。
人間が産まれ、老い死ぬよりも長い時間を経ても変わっていない。
幼竜のダルフェが楽しげに店を手伝っていた記憶が、我の脳に浮かび……成竜となった、今のダルフェと重なった。
「この店、父さんが自分で建てて、内装はもちろんテーブルも椅子も全部作ったんだ。料理も評判で、安くて美味いって、帝都じゃ人気の店なんだぜ? いつも飯時は満席なんだ」
「とても素敵なお店ですね! あ! このお箸……私が家で使っていたのと、よく似ています」
硬い木の実を加工した箸置きに、上部に装飾を施された朱の漆塗りの箸……それを手にしたりこが、懐かしげに眼を細めた。
似ていて当然だ。
この塗り箸の元になったのは、二百年ほど前にある術士が異界から落としたモノなのだから。
それまでは、冷たい金属の箸と飾り気のない木製の箸しかなかったが、この二百年で赤の大陸では多くの国で普及し、使われている。
この世界から、りこの故郷を思い出させる品を全て排除することなどできない。
これから先も、こうして眼にすることがあるのかもしれなっ………ん?
そういえば、確か……ブランジェーヌが…………。
「喜ぶ、か?」
「ハクちゃん?」
「……いや、何でも無いのだ」
以前、我に自慢げに見せた"それ”を。
まだ、ブランジェーヌは所持しておるだろうか?
「え!? あ、はい、お、お招きありがとうございます」
「……また、これ・・か」
転移した我とりこの眼の前には。
見覚えのある、黄色い物体がいた。
ダルフェの父親が黄色いひよこを模した扮装をし、立っていた。
「本日、ひよこ亭は貸し切りです! 楽しく美味しい時間お過ごしください!」
「……はい、ありがとうございます」
りこはこの四日間のうちに、この雄竜とは二度会っていた。
そのさいはまともなレカサを着用していたため、初めて見た奇抜な衣装に戸惑いを感じているようだった。
「エ、エルゲリストさんですよね!?」
「うん! これはね、陛下が作ってくれた僕の宝物なんだよ! トリィさんに自慢しようと思って着ちゃった!」
「そ、そうなんですか……」
ブランジェーヌは手先が器用だからな。
りこに受けるようなら、我にも作るように言おうと思っていたが……なんとも微妙な反応なので、我は要らぬ。ひよこの衣装より、ベルトジェンガより贈られた夜着のほうがよほど反応が良いのだ。
「申し訳ありません、義理父様。トリィ様をお席にご案内していただいてもよろしいでしょうか?」
「父さん! さっさと奥で着替えてこいよ。ったく、その格好じゃ厨房に入れないでしょうが!」
「じいじ、おきがえして! ねぇね、おっさん、いらっしゃいませね!」
ひよこ姿の舅の後ろにいたカイユは、セイフォンで着用していた侍女服を着て木製の丸盆を手にしていた。そのカイユに後ろから覆い被さるように両腕を回したダルフェの肩には、人型をとるようになった幼生が……これは、肩車という状態だろうか?
「うん、カイユちゃん。ちょっと待って、ダッ君! トリィさん、ヴェルヴァイド様、こちらへどうぞ!」
ダルフェの父親は小走りで店内中央へと我とりこを導いた。
長方形の木製のテーブルに背もたれのない椅子……丸太を加工したものか?
素朴な作りのそれらを見たりこの眼が、輝いた。
「わぁ、素敵! すごく可愛いテーブルセットですね!」
「ありがとう! ダッ君……すぐ着替えてくるから、睨まないでよ~。トリィさん、すぐに美味しいご飯を作るから待っててね!」
「はい、ありがとうございます。ハクちゃんも座ってね」
椅子に腰を下ろしたりこは、立って周囲を眺めていた我の袖を引いて隣に座るように促した。
「うむ、分かったのだ」
腰を下ろした我に、りこが言った。
「素敵なお店ね! 温かみのある内装で、すごく居心地が良い……」
「そうか、気に入ったのなら良い」
ダルフェの父親の店は、決して広いとは言えず……客は十数人しか入れぬだろう。
華美さは全くないが掃除が行き届き清潔で、奥にある厨房がよく見えた。
漆喰の壁も天井も、店内の内装も……この店は、ダルフェが幼竜の頃より変わっていない。
人間が産まれ、老い死ぬよりも長い時間を経ても変わっていない。
幼竜のダルフェが楽しげに店を手伝っていた記憶が、我の脳に浮かび……成竜となった、今のダルフェと重なった。
「この店、父さんが自分で建てて、内装はもちろんテーブルも椅子も全部作ったんだ。料理も評判で、安くて美味いって、帝都じゃ人気の店なんだぜ? いつも飯時は満席なんだ」
「とても素敵なお店ですね! あ! このお箸……私が家で使っていたのと、よく似ています」
硬い木の実を加工した箸置きに、上部に装飾を施された朱の漆塗りの箸……それを手にしたりこが、懐かしげに眼を細めた。
似ていて当然だ。
この塗り箸の元になったのは、二百年ほど前にある術士が異界から落としたモノなのだから。
それまでは、冷たい金属の箸と飾り気のない木製の箸しかなかったが、この二百年で赤の大陸では多くの国で普及し、使われている。
この世界から、りこの故郷を思い出させる品を全て排除することなどできない。
これから先も、こうして眼にすることがあるのかもしれなっ………ん?
そういえば、確か……ブランジェーヌが…………。
「喜ぶ、か?」
「ハクちゃん?」
「……いや、何でも無いのだ」
以前、我に自慢げに見せた"それ”を。
まだ、ブランジェーヌは所持しておるだろうか?