四竜帝の大陸【赤の大陸編】
 「トリィ様、失礼致します。あ、お手伝いは不要ですわ。この大皿料理は重いですから」

 湯気の立つ料理の盛られた大皿を持ったカイユの姿に気付いたりこが、席を立とうと腰を浮かす前にそう言って。

「は、はい」
「座っていてください、すぐ終わりますから」

 カイユは手際よく、給仕を始め。
 厨房から次々と大皿に盛られた料理を運び、並べた。
 小皿や小鉢が、頭数の数倍も用意された。
 これはつまり、好きなモノを好きなだけ皿にとり、食えということか……。 

「さあ、カイユもジリも座って! 父さん、母さんは仕事で遅れるって電鏡で連絡きたから、先に食おうぜ!」
「え? そうなの? うん、じゃあ、先にいただこう。待ってるほうが怒る人だからね、僕の愛しい陛下ひとは」

 つがいの性格を熟知しておるのだろう、ダルフェの父親も前掛けを外し席へとついた。
 ダルフェは鋳物の大鍋をテーブルの上に置き、陶器の椀にそれをよそった。

「はい、どうぞ。トリィ様」

 カイユが受け取り、りこの前へと置いた。

「わぁ、根菜たっぷりの美味しそうなシチューですね! これ、何のお肉なんですか?」
「羊だそうです。実は、私は羊肉のシチューは初めてなんです。青の竜族は羊肉は焼いたり炒めたり……元々羊肉自体、あまり食べないので……」

 カイユが苦笑しながら、言った。
 青の大陸では牛や豚、鳥が好まれる。
 だが、赤の大陸では人間も竜族も羊と山羊を好んで食う。
 赤の大陸では牛豚の肉より羊や山羊の肉の流通量が多いのだと、ダルフェが幼い頃に言っていた……。

「ひつじ? めぇめぇさん? ジリ、おいしかな?」

 カイユの隣に座っている幼生が(形態的にはもう人型なので幼生ではないが、小生意気なこやつなど幼生でいいのだ!)、父親譲りの緑の眼で興味深げに料理を覗きんだ。

「うん、ジリ。おいしだぜ! 姫さん、カイユ、ジリ。今日は父さんと俺が作った赤の竜族の伝統的な料理を、思う存分堪能してくれ!」

 片眼をつぶってそう言いうと、ダルフェは喜々として料理の説明を始めた。

「これは子羊のロースト。スパイスが効いてて美味いぜ! この骨の部分を持って、齧り付いて食うんだ。このシチューは羊の首肉と野菜を香草と塩胡椒で煮込んだもので、赤の大陸での"おふくろの味”的なもんなんだ。まぁ、俺にとっては父ちゃんの味だけどね」

 ブランジェーヌは裁縫はするが、料理はせんのだな。
 知らなかったが、まぁ、そのようなことは我にとってはどうでも良いのだ。

「こっちはミンチにした羊肉を団子にして、串に刺して焼いてある。このトマトと香草で作ったソースをたっぷりつけて食うと美味いんだ」

 今、重要なことは。
 りこにあ~んをすることだ。
 さて、どれから食わせ……ん?
 箸をりこが持っておるので、我があ~んをする箸が無いではないか!
 懐かしさもあってか常より嬉しそうに箸を手にしているりこに、その箸を我に譲ってくれぬかとも言い難いのだ……。

「これは羊肉の辛味噌炒め。薄く焼いたパンに、好きな生野菜と一緒に挟んで食べるんだ。市場では露天で買って、食べ歩きする定番だな! で、こっちは……」
「ダッ君、ストップ! とりあえず、食べてもらおうよ! トリィ様、カイユちゃん、ジリ君。たくさん食べてくださいね!」

 ひよこ姿ではなく料理人らしい服を着たダルフェの父親は、ダルフェの隣の丸椅子へと腰を下ろし。
 我の前に、箸を置いた。

「はい、ヴェルヴァイド様。このお箸をお使いください。ダッ君から、給餌行為のこと、聞いてますから」
「…………ありがとうございます、なのだ」
「え?」

 りこの教育の賜物で、我はきちんと箸の礼を口にできた。
 ダルフェの父親は、一瞬、眼を見開き……破顔した。

「ふふ、どういたしまして! 良いお嫁さんをもらったんですね、ヴェルヴァイド様」
「正確には、りこは良いお嫁さんではなく、世界一の良いお嫁さんだぞ?」
「ちょっと、ハクちゃっ……むぐっ!?」

 りこの開いた口に、我が寄せたのは羊肉ではなく。

「ハクちゃん、な、なんで今ここでするのよ!?」
「したかったからだが?」

 我の、唇だった。
 食前酒代わりになったのか、りこの顔は真っ赤に染まった。


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