四竜帝の大陸【赤の大陸編】
 りこは早々にもうこれ以上は食えぬと宣言し、山のような料理は大食漢な竜族達の胃に全て収められた。
 空になった大皿をカイユが下げ、代わりに氷の浮いたグラスに入った黒い液体と揚げ菓子が置かれた。

「冷たい珈琲は、青の帝都じゃ飲んだことなかったろう? 赤の帝都は気温が高いから、珈琲は熱いのだけじゃなく、冷たいのも人気があるんっ……ちょっと、父さん。いい加減、離れろって!」
「嫌だよ! パパ、ダッ君が帰って来てくれてもう嬉しくて嬉しくて、どうにかなっちゃいそうなんだ~! ダッ君、ダッ君! ダッ君、ダッく~ん!」

 さきほどからずっと、ダルフェの父親は隣の息子に抱きついていた。
 それをカイユもりこも、微笑ましげに見つめ。
 幼生は甘い氷菓子に夢中で、父と祖父の雄同士のむさ苦しい抱擁は完全に無視していた。

「父さん……ったく、しょうがねぇな~」 

 ダルフェが父親の髪を撫でると、撫でられた父親は感極まったように涙を浮かべながら言った。

「ダッ君は僕の自慢の息子なんだよ! 格好良くて、強くて、頭も良くてっ……すごく優しい子なんだ! 竜騎士団の団長になった時は、パパはもう心配で心配で……でもそれ以上に、ダッ君が誇らしかったよ!」
「父さん……」

 その言葉に、髪を撫でていたダルフェの手が止まった時だった。

「遅くなってごめんなさいっ!」

 竜体の<赤>が、開け放した窓から店内に飛び込んできた。

「陛下!?」
「母さん!?」

 <赤>よ、竜体で来るなとあれほど言ったのに何故に竜体なのだ!?
 鱗好き竜体好きのりこの眼が、お前に釘付けではないか!

「……ブランジェーヌッ」
「睨まないでよ、ヴェル。人型で城から走るより、竜体で高速移動したほうが早いんだから仕方が無いでしょう? そんなことより、聞いてちょうだい! 素敵なお知らせがあるの!」
「その前に。はい、どうぞ。陛下」
「ありがとう、エルゲリスト。ちょうど喉が渇いてたのよ」 

 つがいの雄竜の差し出した葡萄酒の満ちた杯を一気に飲み干し、<赤>は言った。

「今日の会議で正式決定になったわ! 祝賀パーティーをするわよ!」
「は? 今してる真っ最中じゃねぇの?」

 息子の言葉に、つがいの頭頂部に腰掛けた<赤>は。

「何言ってるのよ、これは単なる昼食会でしょ? お祝いなんだからもっと派手に、大規模にやるわよ!」

 尾でつがいの後頭部を強打しながら続けた。
 叩かれてるほうはとても満足げで……つがいに虐げられて悦にいるとは、やはり親子なのだ。
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