四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「ダルフェがこうして帰って来てくれたし、ジリギが生まれたし、カイユさんに直接会えたし、ヴェルがつがいに出会えたし、トリィさんが無事に見つかったし、祝うことがこんなにいっぱいあるでしょう!? 城を開放して無礼講の大パーティーよ! 今世紀最大級の舞踏会を開催するわっ!」
「またそんな金のかかることを~、ま、いいけどね」
舞踏会?
我は踊れるのだ。
花祭りの時に、りこと練習したからな!
ブランジェーヌよ。
お前は知らぬやもしれんが、我は踊れるようになったのだ!
「やっぱり舞踏会の前にまずは武闘会よね! うふふ♪ 楽しみだわ~!」
ん?
舞踏会の前に武闘会?
「賞金は決定として、賞品は何にしようかしら? そうねぇ、私のあげられるモノなら何でも……何が良いか迷うわね~」
賞品?
あげられるモノなら何でも……今、そう言ったな?
「ハクちゃん、武闘会って……」
<赤>一家のやりとりをカイユと同様に黙って見ていたりこが、我に訊いたので。
「殺し合いの見世物なのだ」
そう、答えた。
「えっ!? こ、殺し合い!?」
「そうだ。昔からある権力者の娯楽で、どちらかが死ぬまで闘うのだ。剣闘士といってそれを生業にしておるものもおって、人間だけでなく獅子や鬼獣等と……」
「ちょっと待って下さい、旦那! 間違ってますから、それ!」
りこに説明しておると、ダルフェが割り込んできた。
「竜族はそんな野蛮なことはしません! 普通の試合です、模擬戦です!」
「そうなのか?」
「そうなんです! 模擬戦ってよりも、ちょっとした遊戯っつーか。体の4カ所に花を飾って、それを先に全部落とされた方の負け。得物は統一規格の模造刀だし、赤の竜族の武闘会では流血は御法度なんです」
ダルフェの言葉に<赤>が捕捉を加え、カイユを誘った。
「もちろん竜騎士はハンデ有りよ? 実力によって、花の数と模造刀の重量を増やすの。カイユさんも出てみる?」
「いいえ、見学させていただこうと思います。私は手加減が苦手ですから」
カイユは即答で断った。
手加減、か。
カイユならば模造刀でも、立派な凶器になるからな。
「そう、残念ね。ダルフェは出るでしょう? 貴方が出れば皆が盛り上がるもの! 前みたいにハンデを最高値まであげて、ちょっと巧く演出して、観衆に受けるような派手な試合をしてくれないかしら?」
「所詮、いわゆるやらせだろ? ん~、どうすっかな~……勝ち方のさじ加減が難しいっつーか、面倒なんだよな~」
ダルフェがグラスに入っていた氷をかみ砕きながら、のらりくらりと答えていると。
「おばあ! ジリ、でたい、です!」
「ジリ!? 駄目、お前にはまだ早いって!」
息子が挙手したので慌てて止めに入ったが、主催者である<赤>は参加を認めた。
「はい、ジリギエ選手を受け付けました! 良いじゃない、出させてやりなさい。お前だって小さい時から出てたじゃないの」
「でもっ、こいつは急に人型になって……まだ身体構造が安定してないんだぜ!?」
「とと~」
父親の反対を封じる策を、小賢しい幼生は心得ていた。
首を傾げ、大きな瞳で母親であるカイユを見上げ、言った。
「かか、いいでしょ? ジリ、ねぇねのりゅきしだもん。つよなりたいの!」
「そう、ジリギエはえらいわね。いいわ、試合の日まで母様が特訓してあげる」
「お、おい! カイユ!?」
「良かったわね、ジリギエ」
「あい、おばあ! ジリ、がんばるです!」
「だぁあああ~! もう、分かった! うん、とりあえず俺も出る! 後悔させてやるからな、ジリギエ!父ちゃんの強さを思い知れってんだ!」
「ダッ君、ジリ君とは階級違うから当たらないでしょ?」
「まったく、大人げない人ね……ふふ、でも闘う貴方が見られるのは嬉しいわ」
「カイユさんとトリィさんには特等席を準備するわね! 舞踏会のドレスも任せてちょうだい! あ! ごめんなさい、もう戻らないと! 新規の契約術士の面談が急に入ったの! じゃあ、また城ね! エルゲリスト、私のランチは城に運んでおいてちょうだいね!」
「はい、陛下」
そして、<赤>来たとき同様に窓から高速で飛び立った。
………………<赤>、何故だ?
何故、お前は。
「……りこよ。どうして我には<赤>は訊いてくれなかったのだ?」
「え? なにを?」
「我にも出るか出ないか訊いてくれぬのは、依怙贔屓でずるくないか?」
舞踏会に出るかどうかも、武闘会に出るかどうかも。
あやつは、我には訊かなかったぞ?
「依怙贔屓でずるい? だって、ハクちゃんはすごく強いんでしょう? 舞踏会はともかく、武闘会は出たらハクちゃんとあたる竜族の人がっ……」
「はぁ? まさか、あんたも出るつもりなんですかっ!?」
りことのやりとりに気付いたダルフェが、呆れ顔で我の顔を見た。
なんなのだ、その反応は。
「ハクちゃん……」
りこ、なぜそのような困った顔をしておるのだ?
まぁ、困り顔も可愛らしいので良しなのだ!
「そうだが。何か問題でも?」
「大有りです! あんたは出たら駄目に決まってるでしょうが!」
「何故なのだ?」
我は武闘会に出て、<赤>に賞品として"あれ”を所望したいのだが?
「旦那、相手を殺さないようにできます?」
「我の相手となると、相手は赤の竜騎士かお前であろう? 手足を落としたとて即死はすまい」
「はい、駄目! 不可!」
「……では、手足は落とさない」
「出血させたら負けって、さっき俺は言ったでしょうが!」
「面倒臭いな。殺さぬのだから、おまけしろ」
おまけ。
そう、おまけなのだ!
殺す方が簡単なのに、頑張って殺さぬように努力するのだ。
多少のおまけくらい許されるであろう!?
「………おまけの使用方法、間違ってますからっ!!」
その後、紆余曲折(これも使用法を間違っておるか?)を経て。
我の武闘会参加が正式に認められた。
りこ、我は頑張るのだ!
貴女のために。
血潮を大地に撒くのではなく。
花を、空に散らそう。
「またそんな金のかかることを~、ま、いいけどね」
舞踏会?
我は踊れるのだ。
花祭りの時に、りこと練習したからな!
ブランジェーヌよ。
お前は知らぬやもしれんが、我は踊れるようになったのだ!
「やっぱり舞踏会の前にまずは武闘会よね! うふふ♪ 楽しみだわ~!」
ん?
舞踏会の前に武闘会?
「賞金は決定として、賞品は何にしようかしら? そうねぇ、私のあげられるモノなら何でも……何が良いか迷うわね~」
賞品?
あげられるモノなら何でも……今、そう言ったな?
「ハクちゃん、武闘会って……」
<赤>一家のやりとりをカイユと同様に黙って見ていたりこが、我に訊いたので。
「殺し合いの見世物なのだ」
そう、答えた。
「えっ!? こ、殺し合い!?」
「そうだ。昔からある権力者の娯楽で、どちらかが死ぬまで闘うのだ。剣闘士といってそれを生業にしておるものもおって、人間だけでなく獅子や鬼獣等と……」
「ちょっと待って下さい、旦那! 間違ってますから、それ!」
りこに説明しておると、ダルフェが割り込んできた。
「竜族はそんな野蛮なことはしません! 普通の試合です、模擬戦です!」
「そうなのか?」
「そうなんです! 模擬戦ってよりも、ちょっとした遊戯っつーか。体の4カ所に花を飾って、それを先に全部落とされた方の負け。得物は統一規格の模造刀だし、赤の竜族の武闘会では流血は御法度なんです」
ダルフェの言葉に<赤>が捕捉を加え、カイユを誘った。
「もちろん竜騎士はハンデ有りよ? 実力によって、花の数と模造刀の重量を増やすの。カイユさんも出てみる?」
「いいえ、見学させていただこうと思います。私は手加減が苦手ですから」
カイユは即答で断った。
手加減、か。
カイユならば模造刀でも、立派な凶器になるからな。
「そう、残念ね。ダルフェは出るでしょう? 貴方が出れば皆が盛り上がるもの! 前みたいにハンデを最高値まであげて、ちょっと巧く演出して、観衆に受けるような派手な試合をしてくれないかしら?」
「所詮、いわゆるやらせだろ? ん~、どうすっかな~……勝ち方のさじ加減が難しいっつーか、面倒なんだよな~」
ダルフェがグラスに入っていた氷をかみ砕きながら、のらりくらりと答えていると。
「おばあ! ジリ、でたい、です!」
「ジリ!? 駄目、お前にはまだ早いって!」
息子が挙手したので慌てて止めに入ったが、主催者である<赤>は参加を認めた。
「はい、ジリギエ選手を受け付けました! 良いじゃない、出させてやりなさい。お前だって小さい時から出てたじゃないの」
「でもっ、こいつは急に人型になって……まだ身体構造が安定してないんだぜ!?」
「とと~」
父親の反対を封じる策を、小賢しい幼生は心得ていた。
首を傾げ、大きな瞳で母親であるカイユを見上げ、言った。
「かか、いいでしょ? ジリ、ねぇねのりゅきしだもん。つよなりたいの!」
「そう、ジリギエはえらいわね。いいわ、試合の日まで母様が特訓してあげる」
「お、おい! カイユ!?」
「良かったわね、ジリギエ」
「あい、おばあ! ジリ、がんばるです!」
「だぁあああ~! もう、分かった! うん、とりあえず俺も出る! 後悔させてやるからな、ジリギエ!父ちゃんの強さを思い知れってんだ!」
「ダッ君、ジリ君とは階級違うから当たらないでしょ?」
「まったく、大人げない人ね……ふふ、でも闘う貴方が見られるのは嬉しいわ」
「カイユさんとトリィさんには特等席を準備するわね! 舞踏会のドレスも任せてちょうだい! あ! ごめんなさい、もう戻らないと! 新規の契約術士の面談が急に入ったの! じゃあ、また城ね! エルゲリスト、私のランチは城に運んでおいてちょうだいね!」
「はい、陛下」
そして、<赤>来たとき同様に窓から高速で飛び立った。
………………<赤>、何故だ?
何故、お前は。
「……りこよ。どうして我には<赤>は訊いてくれなかったのだ?」
「え? なにを?」
「我にも出るか出ないか訊いてくれぬのは、依怙贔屓でずるくないか?」
舞踏会に出るかどうかも、武闘会に出るかどうかも。
あやつは、我には訊かなかったぞ?
「依怙贔屓でずるい? だって、ハクちゃんはすごく強いんでしょう? 舞踏会はともかく、武闘会は出たらハクちゃんとあたる竜族の人がっ……」
「はぁ? まさか、あんたも出るつもりなんですかっ!?」
りことのやりとりに気付いたダルフェが、呆れ顔で我の顔を見た。
なんなのだ、その反応は。
「ハクちゃん……」
りこ、なぜそのような困った顔をしておるのだ?
まぁ、困り顔も可愛らしいので良しなのだ!
「そうだが。何か問題でも?」
「大有りです! あんたは出たら駄目に決まってるでしょうが!」
「何故なのだ?」
我は武闘会に出て、<赤>に賞品として"あれ”を所望したいのだが?
「旦那、相手を殺さないようにできます?」
「我の相手となると、相手は赤の竜騎士かお前であろう? 手足を落としたとて即死はすまい」
「はい、駄目! 不可!」
「……では、手足は落とさない」
「出血させたら負けって、さっき俺は言ったでしょうが!」
「面倒臭いな。殺さぬのだから、おまけしろ」
おまけ。
そう、おまけなのだ!
殺す方が簡単なのに、頑張って殺さぬように努力するのだ。
多少のおまけくらい許されるであろう!?
「………おまけの使用方法、間違ってますからっ!!」
その後、紆余曲折(これも使用法を間違っておるか?)を経て。
我の武闘会参加が正式に認められた。
りこ、我は頑張るのだ!
貴女のために。
血潮を大地に撒くのではなく。
花を、空に散らそう。