四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「殺さねぇから、大丈夫。それに、弾劾はねぇよ。俺は青の大陸にいることになってるんだ。術士協会の連中だって、いもしない奴に何も言ってこねぇよ……ふぁにふんふぁよ!?」
母さんは赤い爪に飾られた指で、向かいのソファーに座っていた俺の両頬を摘まみ、引っ張って言った。
「お馬鹿さん。貴方、竜体で飛んで帰って来たのを忘れたの? トリィさんの見つかった乾燥地帯から城までだってあの誰より派手で目立つ竜体で飛んだのだから、目撃情報多数で術士協会ばればれよ!?」
あ、やべっ。
そうでしたね、うん。
って、いうことは。
俺が戻って来てるの、あいつ等にもとっくにばれてるよなぁ~。
密売組織の親玉達が共同出資して、五十年位前から俺の首に賞金賭け続けてっから……あー、面倒くせぇことにならねぇといいけど……賞金稼ぎにとって、俺の首はお宝だからな。
「ダルフェ……」
頬をつねっていた指先が、いったん離れて。
今度は両頬を包み込むかのようにして、優しく俺に触れた。
「……母さん?」
「彼の……ロワール・ムシェの志望動機は、高額の報酬や雇用条件だけじゃないのよ?」
「え?」
つまり、何か交換条件が……取引を持ちかけられたってことか?
「ある竜族を探して欲しいそうなの」
「竜族を?」
竜族を探してるなら、一族全員を把握している赤の竜帝に訊くのが確実で手っ取り早いが……。
「怨恨か?」
そうだとしたら、教えるべきじゃない。
どんな理由があろうとも、一族の者を人間に差し出すことはできない。
罰することが必要なときは、赤の竜帝が罰するのだから……。
「いいえ。恩人なんですって、その竜族は」
恩人?
「彼はその雄竜に一言お礼を言いたくて、二十年間ずっと探しているの」
「へぇ~、ずいぶんと律儀な……で、その恩人って?」
いや、律儀を通り越して執念っつーか……。
「名乗らなかったから、名前は不明。彼もまだ幼かったから、顔をはっきりとは覚えていないのですって」
「名前も顔も分からねぇのか……髪と眼の色が分かれば、ある程度絞り込めるんじゃないか? ……おい。いい加減、頬から手ぇ離せよ!」
俺の顔から手を離さないまま、母さんは紅玉のような眼で。
「……」
「……さっきから何なんだよ!?」
「…………」
俺の顔を、じーっと見つめた。
「…………彼が覚えているのは、腰まである赤茶の髪と緑の瞳の雄竜であるということなの」
そう言って、俺の顔から手を離し。
ソファーから立ち上がり、執務机へと足を向けた。
「腰まである赤茶の髪に、緑の瞳の雄? ……ん~? 二十年前か……そんな奴、赤の竜族にいたっけ?」
考えてみたが、俺の脳には誰も浮かんでこなかった。
俺の脳にあるのは青の大陸に住み始める以前の情報だが、二十年前ならこの情報で足りるはずなのに。
「心当たり、ねぇな~……竜族じゃなくて、長身の武人かなんかだったんじゃねぇの? ……母さん?」
執務机の引き出しから取り出したそれを、母さんは俺の手をとり握らせた。
「はい、どうぞ♡」
「鏡? 何で今ここで鏡……俺の顔に、何かついてたとか?」
俺は手鏡に自分の顔を映し、見た。
……別に、何もついていない。
いつも通りの男前な俺の顔が、そこにはあった。
いつもと同じ、変わらない。
赤い髪と緑の目玉の………………ん?
「………………………………もしかして」
当時、父さんのリクエストで俺は髪が長かった。
この髪は目立つから、身を偽って仕事する時は染めて……くすんで目立たない赤茶にしていた。
「その雄竜って、俺かよっ!?」
「ダルフェ、貴方のおかげで優秀な契約術士を雇えそうだわ。うふふ、ありがとう」
「ちょっと待てって! 俺は、人間の餓鬼を助けたことなんてなっ…………あ?」
旧アンマルクト国。
二十年前。
王位継承争い。
隣国に攻め込まれて属領に……。
「…………」
俺は。
竜族の雌を人型に固定して玩具にしてやがった、アンマルクト国在住の術士を狩りに行った。
そいつは警戒心が強く、かなり用心深かった。
雌の居場所を知るために傭兵を生業とする流れの武人を装い、俺はそいつに近づいた……。
「……………………あの時の?」
「心当たり、あった? 当時の貴方が、子供でも人間を助けたなんて意外だったわ」
違う。
違う、母さん。
「…………助けたんじゃねぇ」
俺は。
「見捨てたんだ、よ」
母さんは赤い爪に飾られた指で、向かいのソファーに座っていた俺の両頬を摘まみ、引っ張って言った。
「お馬鹿さん。貴方、竜体で飛んで帰って来たのを忘れたの? トリィさんの見つかった乾燥地帯から城までだってあの誰より派手で目立つ竜体で飛んだのだから、目撃情報多数で術士協会ばればれよ!?」
あ、やべっ。
そうでしたね、うん。
って、いうことは。
俺が戻って来てるの、あいつ等にもとっくにばれてるよなぁ~。
密売組織の親玉達が共同出資して、五十年位前から俺の首に賞金賭け続けてっから……あー、面倒くせぇことにならねぇといいけど……賞金稼ぎにとって、俺の首はお宝だからな。
「ダルフェ……」
頬をつねっていた指先が、いったん離れて。
今度は両頬を包み込むかのようにして、優しく俺に触れた。
「……母さん?」
「彼の……ロワール・ムシェの志望動機は、高額の報酬や雇用条件だけじゃないのよ?」
「え?」
つまり、何か交換条件が……取引を持ちかけられたってことか?
「ある竜族を探して欲しいそうなの」
「竜族を?」
竜族を探してるなら、一族全員を把握している赤の竜帝に訊くのが確実で手っ取り早いが……。
「怨恨か?」
そうだとしたら、教えるべきじゃない。
どんな理由があろうとも、一族の者を人間に差し出すことはできない。
罰することが必要なときは、赤の竜帝が罰するのだから……。
「いいえ。恩人なんですって、その竜族は」
恩人?
「彼はその雄竜に一言お礼を言いたくて、二十年間ずっと探しているの」
「へぇ~、ずいぶんと律儀な……で、その恩人って?」
いや、律儀を通り越して執念っつーか……。
「名乗らなかったから、名前は不明。彼もまだ幼かったから、顔をはっきりとは覚えていないのですって」
「名前も顔も分からねぇのか……髪と眼の色が分かれば、ある程度絞り込めるんじゃないか? ……おい。いい加減、頬から手ぇ離せよ!」
俺の顔から手を離さないまま、母さんは紅玉のような眼で。
「……」
「……さっきから何なんだよ!?」
「…………」
俺の顔を、じーっと見つめた。
「…………彼が覚えているのは、腰まである赤茶の髪と緑の瞳の雄竜であるということなの」
そう言って、俺の顔から手を離し。
ソファーから立ち上がり、執務机へと足を向けた。
「腰まである赤茶の髪に、緑の瞳の雄? ……ん~? 二十年前か……そんな奴、赤の竜族にいたっけ?」
考えてみたが、俺の脳には誰も浮かんでこなかった。
俺の脳にあるのは青の大陸に住み始める以前の情報だが、二十年前ならこの情報で足りるはずなのに。
「心当たり、ねぇな~……竜族じゃなくて、長身の武人かなんかだったんじゃねぇの? ……母さん?」
執務机の引き出しから取り出したそれを、母さんは俺の手をとり握らせた。
「はい、どうぞ♡」
「鏡? 何で今ここで鏡……俺の顔に、何かついてたとか?」
俺は手鏡に自分の顔を映し、見た。
……別に、何もついていない。
いつも通りの男前な俺の顔が、そこにはあった。
いつもと同じ、変わらない。
赤い髪と緑の目玉の………………ん?
「………………………………もしかして」
当時、父さんのリクエストで俺は髪が長かった。
この髪は目立つから、身を偽って仕事する時は染めて……くすんで目立たない赤茶にしていた。
「その雄竜って、俺かよっ!?」
「ダルフェ、貴方のおかげで優秀な契約術士を雇えそうだわ。うふふ、ありがとう」
「ちょっと待てって! 俺は、人間の餓鬼を助けたことなんてなっ…………あ?」
旧アンマルクト国。
二十年前。
王位継承争い。
隣国に攻め込まれて属領に……。
「…………」
俺は。
竜族の雌を人型に固定して玩具にしてやがった、アンマルクト国在住の術士を狩りに行った。
そいつは警戒心が強く、かなり用心深かった。
雌の居場所を知るために傭兵を生業とする流れの武人を装い、俺はそいつに近づいた……。
「……………………あの時の?」
「心当たり、あった? 当時の貴方が、子供でも人間を助けたなんて意外だったわ」
違う。
違う、母さん。
「…………助けたんじゃねぇ」
俺は。
「見捨てたんだ、よ」
