四竜帝の大陸【赤の大陸編】
幼女の容姿は、不自然だが有りだ。
幻術系の術式で容姿や性別を偽ることが出来る技術を持つ術士は、稀にだが確かにいる。

「ふうううう~ん。それって竜族の野生の感ってやつぅうう?」
「君、馬鹿? 人間との共存を選んで人型で生活している今時の竜族に、野生の感なんてたいして残ってるわけないでしょう?」

障壁が“内”から“外”に変わったので、導師(イマーム)は支店の屋上へとふわりと舞い降りた。
 それは羽毛のように軽やかなのに、汚泥のように重苦しい気を引きずって降りてきた。

「経験だよ」
「へぇえええ! 経験かぁああああ!? 経験経験経験! お前はぁあああ、それだけの数の術士を殺してきたってことだねえええ!?」

手を伸ばせば、<監視者>に似せた髪に触れられる距離にいる少女は。

「いいじゃぁああん、あんたすっごくいいよねぇぇえ! あひゃあひゃあひゃぁああ!」

全身から溢れ出す術力で髪をなびかせ、切れ長の目をさらに吊り上げて笑う。
それはとても愉しげで。

「うんうん、気に入ったよぉおおお! あひゃあひゃひゃひゃ! あんたの竜珠、私がもらっちゃおぉおおお!」

色の分からぬ僕の眼に、極彩色に輝く狂気の華となって咲き乱れる。

「……君にはできないよ。だって、ここで僕に討たれるんだから。死んじゃう前に、僕の質問に答えてくれるかい?」

それは僕の視覚を歪め、聴覚を捻じ曲げていく。
ああ、なるほどね。
こいつは、幻術系が得意なタイプだ。
青の大陸には、あまりいない……。
やはり、導師は他大陸の人間なのだろう。
幻術系術士ってことは…………黒の大陸?
黒の大陸は、他大陸と比べて術士が少ない。
権力者達が術士を兵器として扱い、魔薬(ハイドラッガー)を乱用したせいだと……。

<監視者>への強い執着を感じさせる容姿の導師(イマーム)。
幻術系の術。
黒の大陸。
黒の大陸にいる黒の竜帝は、死期が近い。
代替わりが行なわれる。
竜帝が死に、新たな竜帝が雌の胎内に……。

「…………」

カッコンツェルの妻、インテシャリヌが身篭ったのが現<青の竜帝>だった。
普通の竜族が、四竜帝をこの世界に産む。
四竜帝といえど、胎にいる時は無力な存在だ。


< 18 / 177 >

この作品をシェア

pagetop