四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第八話
「さて、と……ここでいっか」

俺は手近な天幕に入り、意識の無い少年を術式で眠り込む人間達の間に寝かせた。
ふ~ん……この天幕には10代後半の若い男が三人……朝食の準備をしに外へ出ようとしたところだっ たのか、足元に転がっている大小の椀からこぼれた数種の香辛料の香りが鼻の奥をじわりと掻く。
天幕の数、整然と並べられた荷、躾けられた馬や駱駝……中規模の商隊……“まぁまぁまともな商 隊”だと分かった。

赤の大陸の西域は荒涼とした酷暑の地だ。
雨量に恵まれず、作物の栽培には適さない土地が多い。
それでも一部の地域では地下水を汲み上げ綿花を大規模に作っていたり、高値で取引される鉱石で潤っている街もある。
主に交易で発展し……竜族も貿易を軸に稼いでいるが、俺達と違って賊と紙一重の商売方法をしている奴等もここは多い。
隊商が別の隊商の荷を奪うことも日常茶飯事だし、扱う『商品』だって穀類から貴金属、そして貧しさから親に売られた幼い子供や娘……中央地域に住む富裕層相手に商売している奴隷商人が、買い付けにきて大金を落としていく。
その金が使われ貧しい地域を潤し、人を生かす。
親が子を食わしていくための、金になる。
 
「ったく、人間って生き物は俺等竜族より矛盾に寛容っつーか……ん? そういやぁ、前に竜族の子を浚って売り飛ばそうとしやがった馬鹿がいたから、一族郎党村ごと潰してやったことあったな~」

目の前で、恐怖に震える妻と子の首を撥ね。
泣き叫ぶ男に、老いた両親の手足を斬り落として顔面に投げてつけてやったっけ……。
俺のしたことは、残酷で残忍な悪鬼の所業と言われるんだろうけどねぇ。
半端なことしてたら、俺達竜族は狩られる立場に容易に落ちる。
正しいことだとは言わないが、必要なことだと俺は思っている。
俺達竜族が人間の『家畜』にならないためには、人間には御しきれぬ種なのだと頭に叩き込んでやらなきゃならない。
竜族は長命で温和。
でも、“怖い”のだと……。

「それが俺等竜騎士の役目というか、存在意義でもあるしねぇ……」



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