不機嫌な果実
「ねぇ凌也、どこ行くの?」

私の手を引いた凌也は街中をどんどん進む。

行き先なんてないのだから、ただブラブラしてるだけなのかな。


「…カラオケ」

「…カラオケ?」


「桃子の歌声が聞きたい」

「エ…あんまり上手くないよ」

「うん、期待してない」

「・・・」

…直球で言われると、流石に傷つくなぁ。

私は黙りこくってしまった。


それを見た凌也は、ハハッと笑った。


「真に受けてやんの」

「なっ」


「とにかく聞きたいんだよ、桃子とこういうことすんの

初めてだろ?桃子とずっとこんな普通のデートがしたかったんだよ」


「…凌也」

ポツリと呟き、凌也を見上げる。

凌也はバツの悪そうな顔をして、私から視線を逸らすと、


「オレも歌いまくろう」

そう言って、そっぽを向いてしまった。

…可愛いとこあるんだな。
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