不機嫌な果実
「ゴメン、ゴメン」

「卒業までだからな」

「・・・え」

笑うのを止めて上を見上げた。

私は一瞬何が起きたのか、目をぱちぱちさせて、

凌也を見つめる。


そんな私を可笑しそうに見ながら、凌也は言った。

「それは約束のキス。それなら忘れられねえだろ?」

「ん、もぅ!・・・手を出さないって言ったくせに」


ポカポカと、凌也の胸を叩く。

でもその手を、凌也は簡単に掴んでしまった。

「卒業式の時、桃子をさらいに行くから、覚悟しとけ」

「・・・」


凌也の決意に、黙ったまま頷いていた。

その言葉が、嬉しすぎて、凌也の顔が歪む。


「…泣いてんじゃねえよ」

そう言って困ったように笑った凌也は、私の涙を指で拭った。

「な、泣いてないし」

私は精一杯の強がりを言う。


「泣き虫で、怖がりで、そのくせ強がりな女。

オレしか相手にできないってぇの」


「…バカ凌也」
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