マー君(原作)
<6>

「な、凪・・・・・・」

凪は名前を呼ばれて顔を上げた。眼鏡をかけた、すらりとした顔をした中年の男−−父親が弱々しくこっちを見ていた。彼はリビングにいる怒り狂った母親を椅子に縛りつけていた。

「お前は強い。父さんより強い心を持っている」

「嫌だよ〜、なんでこんな」

帽子を被る凪は、泣きながら母親の後ろの椅子に座る父親に懇願した。

三人がいるリビングは荒れ果てていた。

家具は散乱し、所々に血痕が飛び散っている。先程父親が母親を押さえる時に生じたものだ。母親は顔に白い仮面を嵌め、急に人が変わったように暴れ出したのだ。

「凪、さあ父さんを縛ってくれ。父さんもいずれ母さんのようにおかしくなる。あの光を見たから。

だから、あの虫が、頭の中で、ずっと動き回って、いっ、る」

父親は急に苦しそうに顔をしかめる。頭が痛いのか、必死に痛みを堪えている。父親のすぐ近くには頭を垂れる母親が椅子に縛りつけられている。

その顔には白い仮面がついている。

「もう、だめなんだ。頭が……」

父親は持っていたロープを凪の手に押し付ける。

「嫌だよ! 父さんまでおかしくなったら、僕はどうすればいいのさ」

凪はロープを握った手を放そうとしたが、父親が両手で押さえそうさせなかった。

「いいか。父さんを縛ったら、警察に電話するんだ。やり方はわかるな?」
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