淡い初恋
もう1つの淡い初恋

自分より秀でている男の存在

私、早坂玲奈15歳。春、私はある男に恋をした。

確実と言われた主席合格、だけどそれは見事に打ち砕かれた。先生から「惜しかったな。早坂は2位みたいだ。」と言われ、「どうゆうことですか、先生!?」と私は縋るように問い質した。「どうやら一人だけ早坂より優秀な生徒がいたんだ。A区では有名だよ。初瀬中学校、千堂龍之介くんのことはね。」と言うとその若い教師は、優しく微笑んだ。「初瀬中の千堂龍之介?」と聞き返すと「成績は常にトップ。今年のバスケの試合でMVP取った子だ。」と説明してきた。

そんなの正直どうでも良かった。主席が取れないと知れたら私はまた父に怒られる。その日、案の定私は父に怒鳴られると「早坂病院の名に恥じぬよう次こそは1位を取れ!」といつものように最後はこの言葉で締めた。

母は傍観しているだけ。哀れみの表情を浮かべる訳でなく、ただ軽蔑した目で私を一瞥した。私はこの両親が大っ嫌いだった。リビングの扉を開け、廊下に出ると私はまっすぐ自分の部屋に向かった。4つ年の離れた私の兄がタイミング悪く自分の部屋から出ると「怒鳴り声がこっちまで聞こえた。」と嫌味を言ってきた。

「たまには父さんを喜ばせるようなことしてやれよ。俺みたいに。」と口角を上げて笑うと「あぁ、お前は顔だけだっけ?1位を取れるのは。」と私の顔を覗き込むように言ってきた。「俺と似た顔して出来の悪い妹持つとこっちが恥ずかしいんだよね。」と至近距離で言われ、私は彼を睨みながら唇を噛んだ。兄は顔を上げるとそのまま踵を返し、階段を降り始めた。

都内の医科大学に主席で合格した兄を両親は誇り高く思い、大学合格祝いも壮大だった。それに比べ、2位である私には何もなし。常に兄を見習えと言われ、育った私。そんな優秀の兄のことも昔から憎んでいた。
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