淡い初恋
どうであれ、私は千堂くんを手に入れた。彼がなんと言おうと千堂くんは私のモノだから。絶対誰にも奪われたりしない・・・。

次の日、トイレで取り巻き達に惚気話をしていると高梨希が入ってきた。私はわざと聞こえる声で大きく「ってか、昨日私、千堂くんとやっちゃったんだー!」と言った。「え~マジで?どうだったの?」と聞かれ、「う~ん、初めてだったみたいだからちょっと不器用だったけどそこが良かった。なんか愛を感じちゃったし。」とわざとらしく言った。

本当は愛なんて全く感じなかった。彼が、手際よく行為を終わらせてすぐ帰ろうとしてたなんて口が裂けても言えなかった。

高梨希が個室から出て、手を洗ってるのを横目で見ながら私はつぶやいた。「ごめんね、彼氏取っちゃって。」そう言うと周りもクスクス笑い始めた。「身の程をわきまえないからこうなるのよ。」私は前みたく冷静になれず彼女に毒をついた。彼女の悔しそうに泣く顔が見たかったのに、それに反して彼女は全く気にも留めてないような冷静な顔つきでこっちを向いた。

私は、その表情を見て、怒りがこみ上げた。
「あなたを見てると本当にムカつくの。もう、千堂くんは私のものなんだから邪魔しないでよね。」と冷めた目で言ってのけると彼女は逃げるようにその場を後にした。

何よ、あの、人を見下したような憐れむような目は。勝負に勝ったのは私なのに。結局は、彼は私を選んだのに・・・心のどこかで釈然としない思いが募った。

彼女がむかつく。そして私に本気になってくれない千堂くんにも腹が立った。だけど、彼を好きになってから、悪態をつく醜い自分がもっと嫌いになった。
< 78 / 83 >

この作品をシェア

pagetop