オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
先輩は、顔は普通に格好いいのに、性格がこの通り残念なので、彼女はもちろんいない。
だからクリスマスに一緒に過ごしてくれる女の子もおらず、たぶん友だちもおらず、こうしてあたしを誘っているのだろう、とは思う。
ただ、彼氏がいることも知っているから、先輩のそれは単なるあいさつみたいなものだと片付けてきたのだけれど、どうやら、今のやり取りで完全に確信してしまったらしい。
「話してくれたら、スペシャルなクリスマスディナーをごちそうするよ? もちろん、心は持っているけど、下心はないから安心して」
と。
食べ物が大好きなあたしをディナーで釣る。
葉司から「“オトコの娘”なの」とカミングアウトされてからも食欲だけはあり、バイト中もチョコやらスナック菓子やらを大量につまんでいたからか、その理由は分からずとも、先輩は、あたしを釣るなら食べ物が効果がありそうだ、と密かに学習していたのかもしれない。
現に、ズボンのポケットからクリスマスディナーの招待券を出し、ニマニマと締まりのない顔をしながら、あたしの目の前で振っている。
……これ見よがしに。
まったく、隙もへったくれもない男である。