オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
ほかにめぼしいベンチはなかったため、電車酔いをしている彼が座って休みたいのは必然で、あたしの隣に座るのも、また必然だ。
「よっこらせ、っと」という、少々オヤジくさいかけ声を出すのも、必然だったと言えよう。
それはそうと、ご厚意に甘え、あたしはペットボトルのキャップをひねり、お茶を口に含む。
少しでも体の中に冷たいものが入ると、それだけでスーッと気持ち悪さが引いていくようで、この切羽詰まった状況で声をかけてくれた正義マンの彼が、まるで神様のように思える。
もう遅刻は決定的だけれど、講義よりもずっと大切な、人を思いやる心を彼から勉強させてもらい、何度かペットボトルに口をつけながら、困っている人がいたら、あたしも彼のように助けよう、そう思ったのだった。
親切は、されると嬉しい。
しても嬉しいものなのだから。
「ありがとうございました、だいぶ楽に……」
……あ、あれ?
けれど、そう言いかけたところで、さっきまで隣に座っていたはずの彼が、いつの間にかこつ然と姿を消していたことに気がつく。
辺りに目を走らせてみても、ホームの端から端を見渡してみても、彼とおぼしき人の姿は発見できず、ペットボトルだけが、手元に残る。