オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
 
「そういうもんかなぁ」


そう誤魔化し、葉司の反応を窺う。


「うん、俺的には、そこは絶対、譲れないところだった。……まあ、言ってることとやってることは、かなり矛盾してるんだけどね」


ああ、やっぱり分からない……!

恋愛経験の無さが悔やまれる。

とはいえ、つき合いたてゆえ、あたし的には何か言っておかなければ間が持ちそうになく、かつ、会話が途切れ、沈黙になるのが怖い怖い。


「そっか。よく分かんないけど、分かった」

「あははっ」


苦し紛れに言うと、葉司はなぜか楽しそうに笑い、あむん、と大口を開けてパンを頬ばる。

その姿が無性に可愛く見えて、ああ、好きだなぁ、この人……、あたしはそう思ったのだった。


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それからの1年間は、山もなく、谷もなく、そりゃあもう、ラブラブっとおつき合いをしてきたわけなのだけれど、記念日の「オトコの娘なの」というカミングアウトを皮きりに、紆余曲折ありつつ、こうして今に至っている。

というわけで、あたしは長い長い回想を終え、そろそろステージの用意ができたかしら、と、ゆっくりと目を開け、スタッフルームのドアの向こうからメルさんが現れるのを待った。
 
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