オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
メルさんはこれから『ねこみみ。』に出勤だそうで、店の前で彼女が降りてからは、野宮さんと2人きりになってしまっていたのだ。
こ、怖い……。何を話す気だろう。
野宮さんはそんなあたしをバックミラー越しにちらりと見ると、わずかに口元に笑みを作り、ハンドルを左に切りながら言う。
「お嬢様から言付かっております。お聞きになりたいことなど、ございませんか?」
「ああ……」
そういえば、聞きたいことがあったら野宮さんに聞いてくれて構わない、って、自分のことを話すとき、メルさんが言っていたっけ。
「じゃあ、野宮さんのことでもいいですか?」
「私ですか? ……私なんぞ、これといって大して面白みもございませんが、石田様がよろしければ、お答えさせて頂きます」
「では、遠慮なく。ええと、そのほっぺたの傷はどうされたんですか?」
野宮さんが快諾してくれたので、あたしは思いきって頬の傷のことを聞いてみることにした。
メルさんの言った“聞いてくれて構わない”は、あたしの勝手な解釈を入れると、野宮さんのことも聞いていい、ということに思える。
何しろ、あたしの中で一番怖かったのが野宮さんだったし、傷のことが分かれば、ちょっとは野宮さんに対する印象も変わるかもしれない。