オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
あたし的に、メルさんは謎多き美女のままのほうが神秘的だったり妖艶だったりの雰囲気がより出る、というような気がするだけ。
とどのつまり、部屋に着くまでの間の話題に、野宮さんの頬の傷が打ってつけだったのだ。
あたしのストレートな質問に、野宮さんは少し考える素振りをしてから話しはじめる。
「この傷は、そうですね……もう10年前になるでしょうか。私はお嬢様が幼少の頃からお世話をさせて頂いているのですが、その当時、屋敷ではクマの子どもを飼っておりまして」
「クマ!?」
「はい。膨大な敷地があるものですから、山も所有しているのです。それで、母親とはぐれてしまったのか、子グマが屋敷の庭に現れ、お気に召したお嬢様に世話を言い渡されました」
屋敷にクマって……。
メルさんの家の謎は深まるばかりだ。
よし、ちゃんと話について行こう。
「しかし、動物が苦手な上、こんな顔をしているものですから、子グマが懐いてくれるわけがありません。それでも、お嬢様から与えられた仕事だからと躍起になって世話をしていると、ある日子グマと揉み合いになりまして……」
「揉み合い!?」
「ええ。お恥ずかしながら、その揉み合いの最中、爪でシャッとやられてしまいました」