オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
 
いいのだ、あたしは。

愛菜が元気で働いていて、メルさんにも会え、伝えたいことを伝えられたのだから。

今さら、愛菜とどうにかなりたい、などという気持ちは、持ってはいけない……。


「じゃあ、帰ろうか、奈々。メルさん、本当にありがとうございました。あたしがお願いできることじゃないんですけど、愛菜のこと、これからもよろしくお願いしますね」


そう言って、あたしは席を立つ。

いつの間にやらお客さんもだんだんと増えてきていて、メルさんと長く話していると、かえって目立ってしまい、愛菜に気づかれかねない。

いや、メルさんには一発であたしだと気づかれてしまったけれど、変装には自信があった。

ただ、声はどうにもならないため、もし話し声が聞こえたら声でバレてしまう、という懸念が焦りにつながり、早くカフェを出なければ、という行動に如実に現れたのだ。


「えー。もう少しいいでしょ? バレたらバレたで面白そうだし、そもそも、悪いことをしてるわけでもないんだからさ。それに、メルさんとも、もうちょっとお話したいし」

「まあ、嬉しい」

「奈々っ!! メルさんもっ!」


けれど、2人はとことんマイペースだった。
 
< 86 / 343 >

この作品をシェア

pagetop