オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
 
そうして奈々に釘を刺し終わると、やれやれと腰に手を当てたメルさんが戻ってきた。

顔を、さっきあたしが竹山を発見したときのように歪めながら、それでも振る舞いには気品を漂わせ、しかしとても怒っていらっしゃる。


「もうっ。愛菜も愛菜よ。ほんっと、危機感の欠片もないんだから。ああいうのが一番危ないの、なんで分からないのかしらねっ」


そう言って、メルさんは大きなため息をつく。

顔には疲労の色も濃い。

それはそうだ、たった今まで竹山とバトルを繰り広げ、けれどその竹山はちっとも反省しておらず、すでに愛菜に言い寄っている。

愛菜も、営業スマイルなのか、本心からなのかは分からないけれど、竹山に対してまんざらでもなさそうな態度を取っていて、せっかくのメルさんの苦労が、まるで水の泡だ。


「ごめんなさい、メルさん。愛菜、あれでけっこう頑固なところあるんですよ……。サッカーで培ったんですかね、そういう頑固さ」

「ふふ。まことちゃんが謝ることじゃないわ。悪いのはルールも守れない竹山のほうよ」

「ありがとうございます……」


疲れていても、やはりメルさんの微笑みは揺るぎなく美しく、あたしは申し訳なく思いながらも、その微笑みに癒された。
 
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