不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】

…覚悟

そんなこと…

そんな危険を冒せるはずがない。

私たち夫婦は、もう充分に色々な事で苦しんできた。

大希さんの苦しみは表情にほとんど出さないが、

それでも私以上の何かを彼は背負っている。


でも…

それなら…

もしも、もしも堕胎した後、治療しさえすれば、

もう一度妊娠することが果たしてできるのだろうか?

そんな都合よくいくのだろうか?

やっぱり無理じゃないだろうか。

なら産む?

でも、でも…

気持ちは水面の上の木の葉のように揺れ動く。

さっきこうしようと思えば、次の瞬間それに自信がなくなる。



診察が終わり会計を待つ間、病院のソファーに座って、

ずっとそのことばかりを考えていた。


気持ちが天国と地獄を行ったり来たり、行ったり来たり。

でも近いうちにどちらにするか、決めなければいけない。


まずは大希さんに、なんて言おう。

どうしよう…

その前に言うべきかどうかを考えなければならない…


お金を払って、私は重い身体を引きずって職場に戻った。

仕事は相変わらず忙しかったものの、集中するなんて無理だった。

私の頭の中は…

言い訳と嘘でいっぱいになった。
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