不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】

…虚偽

その夜、私は大希さんに病院に行ったことを報告した。


「重大な病気じゃないって?」

「うん。病気ではないって」

「そうか。とりあえず大したことはないんだな」

「うん」

そう、私は嘘はついていない。妊娠は病気じゃない。

それに伴った症状は出ている。

この身体でオーバーワーク気味なのも事実だろう。

でも、全ての事実をありのまま告げる勇気は

その時にはまだなかった。

「大したことがないだけで、万全なわけじゃない。

瑞希も心配してるし、早く元気にならなきゃな。

それに、この体調じゃそっちの治療するかどうか話し合う土俵にすら

乗れる状態じゃないじゃないか」

大希さんは苦笑いしながら、私にそう告げた。


「治療?話し合い?」

私は、大希さんが今、この場でその話を持ち出すことが

何でなのかよくわからなかった。

「不妊治療だ。どうせ諦めてなんかいるわけないんだろう…

どうせ、お前の事だ。

また、やりたいって話になるだろうよ…

結局いつかは俺を説得してしまうんだから。

それが説得なのか、誘惑になるのかは…

微妙なんだろうけどな」

にたっと口角を上げ、艶っぽい瞳に微笑みを浮かべてこちらを見る。

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