キミと生きた時間【完】
「なぁ、お母さん。里桜は……ずいぶん成長したんだなぁ」
お父さんはわずかな笑みを浮かべながら部屋の隅にある家族写真に視線を移した。
それは、以前行った公園で撮った一枚の家族写真だった。
薄ら目に涙をためながらもホッと安心した表情を浮かべるあたしを抱っこして笑うお父さん。
あたしの体に寄り添うように微笑むお母さん。
いじめられるようになってからよく見る夢。
その中にでてくる、鉄の輪の中を進んでいく公園の遊具。
先へ進むことも引き返すこともできずに、ただその輪の中で泣きじゃくったあたし。
「あの写真の日の里桜のこと、お母さんは覚えてる?」
お父さんの問いかけに、お母さんがゆっくりと顔を上げて写真立てに視線を向ける。
「……えぇ。輪の途中でどうすることもできなくてただ泣いていた里桜をお父さんが輪の中までいって助けに行ったのよね」
「あぁ、そうだ。あの時、里桜はただ泣いていただけだった。僕らに手を伸ばすこともしなかった」
お父さんは立ち上がり、写真立てを手に取ると、再びソファに腰かけた。