キミと生きた時間【完】
「……田中君……?」
振り返ると、田中君はこちらに駆け寄りハァハァと膝に手をついて肩で息をした。
田中君と言葉を交わすのは、あの告白以来だ。
田中君に告白されなければ、あたしは今も美奈子と一緒に笑い合っていたかもしれない。
嫌がらせを受けることも、いじめられることもなかったかもしれない。
……――なんてね。
多分それは違うって頭の中では分かっているつもり。
田中君に告白されたことは、きっとただのきっかけにすぎなかったんだろう。
確か、あれは田中君から告白される少し前のこと。
忘れ物をして誰もいないと思っていた教室に入ろうとした時、美奈子と何人かのクラスメイトがコソコソとしゃべっていたのに気付いた。
明らかに雰囲気は悪く、あたしは教室に足を踏み入れることができなかった。
そこで、あたしは信じられないセリフを耳にした。
『里桜ってさぁ、純情っぽいふりして、案外いろんな男に色目遣ってるよね~』
美奈子の声に同調するように、『あー、それ分かる!』と騒ぐ。
教室の扉に背中をつけたまま、動けなかった。
純情っぽい振りをした覚えもないし、色目を使った覚えもない。
だけど、否定しなかった。
ううん、できなかった。
この陰口の先に何があるのか、何となく思い当たってしまったから。
あたしは黙ってその場から立ち去った。
やっぱり、田中君だけがいじめの原因ではないのかもしれない。
あたしがいじめられるのは
宿命だったのかな……?