毒舌に惑わされて
「そんなことないもん」


恥ずかしくて、本当の気持ちなんて言えない。


「ま、若くないんだから、仕事中に寝るなよ。じゃあな」


聖也は玄関へと歩き出す。


「待って」


「ん?」


「どうやって帰るの? お金ないんじゃないの?」


「ポケットに金が入ってた」


ジーンズのポケットから一枚の千円札を出して、ヒラヒラさせた。電車で帰ると言う。


私は時間を確認してもう一度寝ることを決めた。寝不足は肌に悪い。若くないし。

布団をかけて、少し残る聖也の香りに包まれるように眠る。


今日は金曜日。

金曜の夜は『fantasy』で過ごすのが恒例となっている。しかし、今日はやっぱり寝不足で何度も欠伸が出て、課長に睨まれた。

気分は最悪。こんな時は飲みたいのだけど、家に帰って早々と寝たい気分もある。

どうしようか悩む。

会社を出た途端、スマホが着信を知らせる。ディスプレイは‘聖也’と表示されていた。
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