毒舌に惑わされて
聖也はテレビを消して、私が持っていたボストンバッグをさり気なく持ち、玄関に向かう。

そういうさり気なさにときめてしまう。かっこいい男は罪だな。

静かな車内は気まずいから、私は1人でどうでもいいことを喋っていた。

聖也からは返事がないから、ただの独り言。でも、耳には入っているだろう。


「今日、大倉くんからデートに誘われたけど、泣く泣く断ったのよ。デートしたかったなー」


「またデートするつもりなのか?」


おや? 珍しく返事ありだ。大倉くんに興味ありか?


「うん。今週は無理だから、来週しようねって、約束したの。フフッ」


「何がフフッだよ。お前、バカだな」


「何でよ。デートを楽しみにするのにバカはないでしょ?」


「莉乃はさ、大倉さんが好きなの?」


「大倉くん? んー、好きと言えば好きだけど」
< 106 / 172 >

この作品をシェア

pagetop