毒舌に惑わされて
「ちょっと途中、事故渋滞にはまって遅くなっちゃったよ」

「そうなの? それじゃ仕方ないわね」



いや、渋滞なんてしてなかった。でも、まさか聖也がフォロー?

ちょっと驚きだ。


「おい、玄関で止まってないで早く入れよ」


一瞬、優しい男に見えたのは幻だったようだ。


「はい、はい」


「莉乃…」


聖也が低い声で呼ぶ。今度は何?

靴を脱いで、目の前に立つ聖也を見上げる。


「返事は一回でいい。はい、はいはだめだ」


は? あなたは私の教育担当か何かでしょうか。


「莉乃ー、こっち手伝ってー」


葉月に呼ばれて急いでキッチンに向かった。


「わあ、すごい!美味しそう!」


たくさんの料理が完璧に出来上がっていた。でも、ここまで出来ていたら私が手伝うことなんてある?


「今、盛り付けるから、莉乃は運んでね」


なるほど、私の役目は運ぶこと。小さい子どもでも出来ること。


何だか葉月の娘になった気分で笑える。お手伝いを頑張ろう。褒めてもらえるくらい頑張ってみよう。
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