毒舌に惑わされて
朝からいい男を見て、良い気分に浸ろうと思っていたのに、ベッドから引っ張られる。


「キャア!」


「なんだよ。うるせー。早く服着ろよ」


「だって、有り得ない」


私は上半身裸だった。下はパンツだけ履いていたけど、全裸に近いあられもない姿だ。


「何もしてないから。見ただけだ。どうでもいいから早くしろ」


「見ただけって…」


一応乙女の恥じらいはあるんだけど…私は渡された自分の服をもそもそとベッドの中で着る。

私には裸で寝る習慣はない。果たして、自分で脱いだのだろうか?


「ねえ…」


「なんだよ、あと10分で出るぞ」


「えっ?嘘!」


のんびり話をしている時間はないらしい。超特急で服を着た私は引っ張られる格好で聖也の住むマンションを出た。

最寄り駅まで5分間、ずっと手を握られていたが、駅につくと離され、「じゃあな」と聖也は背中を向けた。

行っちゃった…。

スマホで時間を確認すると10時。私は随分のんびり寝ていたようだ。聖也の乗った電車と反対方向の電車に乗って、2つ隣りの駅で降りる。
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