毒舌に惑わされて
はい? 何ですと?

また余計なことを言う。


「だから、俺が判断する。莉乃は俺のとこに来るんだ。ほら、行くぞ!」


強引に野村くんから離され、連れて来られたのはすぐ近くのマンション。


「あ、ここって」


「今頃思い出した? やっぱりバカは記憶力ないな」


野村くんの住んでいるマンションは聖也のマンションの斜め向かいだった。

タクシーに乗って、連れて来られたからここがどこかなんて周りを見る余裕がなかった。

それにここに来たのは一度だけだし、あの時は泥酔状態だったから、朝になるまでの記憶が全くない。

記憶力がないんじゃなくて、意識がなかったからだ。

肩を抱かれたままでエレベーターに乗り、6階で降りた。


「あ、6階だったんだ」


「ほんと覚えていないんだな」


「だって、二度と来るつもりなんてなかったから、覚えようとも思わなかったもの」


しかし、私は二度と来るつもりのなかった部屋に何でいるのだろう。

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