毒舌に惑わされて
「お前、あいつのとこに泊まるつもりだったの?」


「そんなつもりはなかったけど」


聖也は冷蔵庫から出した缶ビールを私に渡して、隣りに座った。


「こんな夜に男の部屋に行くなんて危険だろ?」


聖也は私の保護者だったのかしら?それに、今いるここも男の部屋なんだけど、それはいいのかな。


「だってさ、下心を見せるとか言われて」


「それこそ危ないだろ? 莉乃はほんとバカだな」


またバカと言われた。


「そんなにバカと言わなくてもいいじゃない…」


私だって、危機感くらい持っていたし。大人なんだら、ちゃんと自分の置かれている状況だって分かってた。


「じゃあ、あいつのマンションに行ったのは合意の上?」


「それは少し違う」


「だろ? 俺は莉乃が困っているように見えたから……」


「もしかして、助けてくれたの?」


聖也って、分かりにくいな。


「いや、助けたわけじゃない。ムカついただけだ」


やっぱり分かりにくい。葉月は単純だと言っていたけど、こんなに分かりにくい男はいないと思う。

私は残っているビールを飲み干した。


「そろそろ帰るね」
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