恋の賞味期限 愛の消費期限(Berry’s版)【完】
気が重かったが、私は椅子に座り直し先生に向かって聞いた。


「先生。実は産むかどうかまだ決めかねているんです」

この一言でその場の空気が一気によどむ。
医師はドアの方に視線をやって

「…ご主人はご存じなんですか?」

と淡々と話した。

「いえ。私の中で、まだ悩んでいるところなので、相談できていません。
ここは、大きい病院だから、もちろん中絶はできますよね」

「はい。一応はできるのですが…
いろいろご事情はあるかとは思うのですが、まずはよくご主人と
相談してからにしてくださいね」

医者はそれだけ言って
超音波の写真を私に渡してくれた。


小さな袋が写っているかいないかの写真。
でもそこには確かにある命。
この命を巡って私の人生は大きく変わるだろう。

この命を産むのか産まないのか?
独りで育てるのか?
誰かと…
誰と育てるのか?
そもそも私の身体が子どもを産む事に耐えられるのか?
不確定で不安定な要素ばかりがどんどんと頭の中から溢れてくる…

その写真を握り締めて私は診察室を後にした。

これまでの妊娠だって、素直にうれしかっただけではなかった。
…でもこれほど追い込まれた状況ではなかったようなきがした。




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