恋愛音痴と草食

先輩との食事







「…なんで彼氏作らないの?」
 出されたデザートを細長いスプーンで行儀悪くも突っつきつつ、先輩が首をひねってマジマジと私の顔を見た。


 や、だからね、先輩。毎回自虐的に言ってるでしょ?


「何度も言わせないで下さいよ。もてないから、としか言えないんで」

 オーバー気味に ヤダヤダ と付け足したにも関わらず先輩の攻撃は続いた。

「……高望みし過ぎとか?」

「別にそんなこと無い、はず」

 …うん、無いなぁ。高望みが可能なほどの器量はあいにく持ち合わせてないから、そんな大層な彼氏なんか望んでない。


「ハズかい…」


「たぶん縁っていうのが私には薄いか無いかどっちかなんじゃないですか?」

 私の答えに先輩がオイオイと呆れた表情でツッコミを入れた。


「…それは頑張って彼氏作ろうとしてもうまくいかない人が言うセリフであって、アンタみたいな、まったく彼氏作る気がてんで見られない女は言っちゃ駄目だから」

その言葉と同時に現在育児休暇をとっている私より三歳上の金子先輩が手にしていたスプーンの先を私にビシッと突きつけた。

…だからそれは行儀悪いってば。

「彼氏欲しくない訳じゃ無いですよ」

 できれば欲しいかなと思ってるのは本当。

「…うっそだぁ。結子ちゃんが彼氏作るのに積極的になったのって私一度も見たことないんだけど?」

…ぐっ。まったくもっておっしゃるとおり。

 言葉につまった私に、金子先輩がホレ見たことかと意地悪く笑った。

「…そんなイイオトコはいねぁがぁってなまはげみたいなことできませんよ」

 なんかね、男受け気にしたファッションとか、男欲しいです的なアピールって私には出来ない。それでも出来なかったら言い訳というか逃げ道無くなっちゃうからという実に後ろ向きな理由ですけど。


「やんなさい」


「…命令してるし。別に私そんな頑張って彼氏作る気無いんですよ。いたら素敵だろうけどいなくても、ま、いっかなぁ的な」

「昔っからそうだもんなぁ。恋愛にトラウマとかある訳じゃないんでしょ?」

「……修羅場とかトラウマとかまずそんな状況になったことないなぁ」

 内緒だが、彼氏らしい彼氏がいた試しもない。なんだろ、女としては私きっと欠陥商品なのかもしれない。恋愛的なセンサー働かないんだよなぁ。いいなぁと思える人いてもそれでどうのこうの動いたことも無い。

「……今居ないの?いいなって男」
 先輩は今日はずいぶん私のコイバナに関心あるみたいで更に問いかける。

「出勤日は自宅と職場以外行き先無いでしょ?休みは、近所の大型ショッピングモールくらいしか外出しないし、誰か見つけるってのは特に無いですね」

 私の休日の過ごし方なんて自宅以外は必要なものを適当に買い物に行ったり本屋やレンタルビデオ店で大概終わる。

「職場は?北川さんとか今フリーみたいだし」

 先輩があげた北川って確かに顔はまあまあイケメンだけど……

 私は小さく鼻を鳴らしながら金子先輩に判断材料をプレゼントした。

「搬入の北川君はあいつ最低ですよ。二股しやがったくせして即、私の後輩に言い寄ってましたから」

 残念ながら私の後輩は彼氏がバッチリいるのでソッコーでまた次にこなかけてたし。

「平気で女裏切るような奴はぜったい私は無理だし、あっちだってたぶん私みたいなのはタイプじゃないと思うんですよ」

 お互い様だけど範囲外だろう。

私は続けた。

「私は裏切るのも裏切られるのもどっちも耐えられない」
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