恋愛音痴と草食
じっと頬杖ついて私の顔を見ていた先輩は ふぅん と一言唸った。
「え?私おかしいですか?」
反応が鈍いことに思わず不安になりどこかマズイのか確認してみた。
先輩はゆるーく片手を振りつつ
「や、おかしくないよ。結子ちゃんは結子ちゃんに一途になってくれる人がいいし、同じように結子ちゃんも一途になれるくらいな相手が希望ってことでしょ?」
と答えた。
そのとおり、そうなる。
私はぶんぶんと首を縦にふった。
金子先輩は
「職場のアンタの姿知ってるから、そんな乙女思考なのがビックリだわ」
などと失礼なことをつぶやいた。
職場の私は、あんまりどころかぜんぜん可愛くない。後輩を元気に叱りとばし、上司にすら時には平気で食って掛かる。
「……だって仕事はきちんとしないと」
真面目に生きていくのが何より大事だと両親からすりこまれ、私はその教えをしっかりまもっている。
……ただ、その、元々の素養というのか、小学時代から培った生徒会役員気質とでも言おうか、ふざける男子どもを一喝(どころか蹴りとばし)してまわっていた結果 『佐倉の姉御』となり中学入学には佐倉結子は姉御キャラ確定していた。
「うわ、佐倉怖いわ」とはいまだによく言われる。
人間そうそうキャラは変わらないってことじゃないの?
「結子ちゃんの真面目なところとか私ら大好きだけど、あんまり恋愛方面には力入れてないのが野郎どもにも伝わるんだろうねぇ」
先輩はいかにも残念そうにフォローしてくれる。
あんまり残業入らなかったあの娘とか、仕事はよくミスしたがとにかく笑顔だけは素敵だった娘とか確かに寿退社は早かったっけ。
「結子ちゃんよく気配りしてくれるのはみんな知ってるし、別に美人とは言わないけど悪くない容姿なのに…」
なんだろうねぇ、この男っけの無さ、という先輩に私もそうだなぁと思う。
我ながら不思議。
「て、ことは誠実な男ってことだよねー」
「…まだ続くんですか、この話題」
苦笑する私に金子先輩が「だっていっこも解決してないし」と言ってのけた。
そして、その次の言葉を私は後日感謝するとともに恨めしく思うことになる。
「加賀見ならいーんじゃない?」