桜色ノ恋謌
「だからさ。せめて今日1日だけは、昔に戻ったつもりで接して…くれないか?」

「……へ?」


言葉の意味が分からず、つい間抜けな顔で鳥羽さんを見返してしまった。


何が言いたいのよ?



「俺なんか結局、梶さんには敵わないって分かったから。だから、今日1日だけ俺に付き合って。そしたら、咲絢を……諦めるから……」


なんで泣きそうな顔で笑うの?


どうして私が引いた一線を飛び越えて来るの?


私はもう諦めたのに。


鳥羽さんに抱いてた特別な気持ちは、あの日の海に置き去りにしてきたのに。


それなのに。


頬に伝うこの涙は、どうして流れてるのよ。


分かんない。


私の方が先に鳥羽さんのことを諦めたはずなのに、どうしてこんなに切なくなるの?


胸が、痛い。


鳥羽さんに言われた「諦める」って言葉が、胸に突き刺さって苦しい。



……誰か、助けて。


私はもう、この先に進みたくないんだよ……。


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