Sympathy For The Angel
「大観覧車が見えるんですけど」

「女二人で観覧車ぁ?ありえねぇ」

どうやら観覧車に乗りたいという私の願いは却下されたようだ。


砂浜を歩きながら、足を冷たい冬の塩水につける。


すぐ間近に見える観覧車の前には、高さが5メートルはあろうかというクリスマスツリーが聳え立つ。


「……一昨年のクリスマスはさ、皆でパーティしたんだよね。エリカんちで」

「あ?あー!そうだった!うちの家族も喜んでたんだよね。お父もお母も。弟なんてさ、あれからヒロにすっごい懐いて……」

「私はさ、エリカんちが、一番羨ましいよ」


波を追いかけて、追いかけられて、足を濡らす。

「……あん時は、ヒロも樹もいたんだよね……」

クリスマスツリーを見ながら、ポツリとエリカが一言を漏らした。


「エリカはさ、ヒロの過去って知ってんの?」

「ん……。小さい頃親と死に別れて、親戚をたらい回しにされた…ってね……」

「そ、か……。樹はさ、親に捨てられて、餓死寸前のところを施設に引き取られたんだよね」

「そうなの?ごめん、それはヒロからは聞いてなかった……」

「他人には言いたくないだろうしね、そんな話」


そうだ。ましてや引き取られたその施設で、想像を絶するような虐待を受けた樹。


私は樹を拒絶した訳ではない。

私はいつでも樹が全てを話してくれる事を切に望んでいる。

だのに、樹は大事な事は、何も私には話さない。



そう。

私を拒絶したのは、樹の方なのだから。
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