椿山亜季人の苦難日記
「日和…?」
校長室の前で待っていたのは、
不安げな顔をした千歌と亮介くん、少し後ろで伏し目がちにしている亜季人くんだった。
涙でボロボロで焦点の定まらない私は、どんなに酷い顔をしているだろう。
「…日和?」
ヒンヤリとした千歌の指が、頬の涙に触れた。
大好きな強い瞳じゃなくて、すごく、心配している瞳。こんな顔、させたくなかったのに…。
ギュッと、力いっぱいに千歌を抱きしめて、
「ごめんね?もうちょっとだけ、待ってて?」
必ず話すから、そう約束すると、わずかに頷いて、離れた。
「日和ちゃん…。」
亮介くんは、あの時みたいに大人びた、しっかりした表情で、
手をギュッと握ってくれた。
「待ってるからね?何があっても、友達だから!」
力強い手が温かくて、はなされたとき、寂しかった。
「ありがとっ…亮介くん。」
廊下の先に、静かに立つ亜季人くん。
怒っているのだろう。
「忠告してもらったのにね…ごめんね、亜季人くん。」
そのまま、横を通りすぎながら聞こえた、亜季人くんの声は、ひどく静かで、
「頑張ったね」
確かに、そう言った。