君がいた夏
あふれる熱気。わいわいとにぎやかな雰囲気。
私もすっかり呑まれてしまい、すぐ帰るつもりだったのに、出店で何か買おうと足をのばしてしまったのだ。
十分ほどふらふらと見て回ったところで、美味しそうな匂いに鼻を掠められ、足を止めたのはたこ焼きの屋台の前だった。
買おうかな、そう思って足をそちらに向けたその時……。
「ねえねえ、そこの君、一人?」
突然腕をつかまれたので、驚いて顔を上げると、そこにいたのはなんだかよろしくなさそうな男の人三人組。
「……はい?」
きょとんとしながら聞き返すと、彼らは何故か嬉しそうに笑った。
「やべー、声も可愛い!」
その笑い声が何だか気味悪くて、私はさりげなく立ち去ろうとした。
「おっと……だめだよ、いなくなろうとしちゃ。一緒にまわろーぜ、お祭り」
けれどその退路は、あっさりとその人達の体によって断たれてしまって。
……これはあれだ。ナンパとかいうやつだ。そうに違いない。
もっと焦るべきなのに、なんだか他人事みたいにそう思っていたのを覚えている。
スタイルが良くて大人っぽい麻奈と一緒にいるときなら何回かあるけど、一人でいるときにされるなんて思ってもみなかった。