どこからどこまで
 自分の部屋の合い鍵を渡すことにはなんの抵抗も覚えなかったが、沙苗の部屋の鍵を受け取ろうとは思えなかったし、実際受け取らなかった。さすがに、色々な意味でまずい気がしたからだ。

 合い鍵が沙苗のものになってから約2ヶ月。帰宅すると沙苗が俺の部屋で洗濯物をたたんでいることもしばしば。干してもらうときもそうだが、沙苗が下着にまでなんの抵抗もなく触れていることになんとなく落ちこんだのはここだけの話である。今はなんとか慣れたが、それはそれで恐ろしいものだ。


「…さな?」


 今日もまた、洗濯物を取りこんでたたんでくれているのだろうと靴を脱ぎながら呼んでみる。

 いつもなら"おかえりー"と返ってくるはずの声が聞こえないということは、今日は来ていないんだろう。もしくは既に自分の部屋に帰ったあとだったのか。

 いや、どっちでもなかった。

 ベランダの窓の鍵を閉めながらため息をつく。どうやら洗濯物をたたみながら眠ってしまったらしい。


「ただいま…」


 あろうことか、俺のベッドの上で。

 洗濯物といっしょに日光にさらされていたクッションを抱えて、気持ちよさそうに。

 昔から沙苗は、"太陽のにおいだ~"といいながら干したあとの毛布にくるまってよく昼寝をしていた。

 かわんないな。

 頬が緩む。

 化粧をした顔も、ほんのりと茶色い髪も、最初はどうしても見慣れなかった。

 それでも寝顔は、かわらない。昔から、ずっと。

 可愛い、俺のいとこだ。 

 そのいとこを幼い頃からずっと想い続けている俺は、不純なんだろうか。
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