どこからどこまで
「まあ、とりあえず本気ですきなんだな」
ふざけた調子が、また急に消えた。ひとりごとのようにも聞こえたそれに、考える間もなく答えていた。
「すきだよ」
言って、後悔した。
剣持が俺の方をジッと見ているのがわかる。目は合わせない。合わせられない。
「翔!呑も!!」
「…………は?」
今の流れで、どうしてそうなる。
「お前そういう話全然しないからさー、酒入ったらもっとしゃべるかなー、とか」
「呑まないし喋らないし帰るし」
「わー、つれねぇー。夕飯つくんの?サナちゃんのために?」
「……つくるけど」
「いくら家事とかしてもらってるからって毎日飯つくるとか、健気だな」
「ほっとくと、まともに食べないんだよ」
課題の締め切り前の沙苗の口癖は"1日が48時間だったらいいのに"、"食べなくても寝なくても生きてられるからだがほしい"だ。
ほっとくにほっとけない。
食事の時間は沙苗と一番長く一緒に過ごせる貴重な時間。料理もすきでやっていることだ、苦に思ったこともない。
「でもまあ、すきな子に毎朝起こしてもらえるっていいよな。素直に羨ましいわ」
確かに、そうだ。
朝一番に、沙苗の声で、手の温度で、目を覚ますことができる。
確かに、幸せなことだ。
「あー、でも?後朝(きぬぎぬ)、ってわけじゃないんだっけ?それはそれで複雑?」
俗に言う、朝ちゅん。
手をだしたことなんて、一度もない。
「……一言多いんだよ」
頭を叩けば乾いた音がした。
いてっ、と声をあげた剣持に悪びれる様子はない。
そんな態度を見て、もうひとりのいとこのことをふと思い出した。
薫は、なんて言うだろう。
今朝の沙苗とのやりとりを思い出す。
3人で、なんて言わなければよかった。薫も気を遣って2人ででかけてこい、と言いそうな気がする。
どこか、ふたりきりでないことに、安心している自分が嫌だ。
テストが終われば夏休みだ。あってないような、夏休み。
本実習はまだ始まっていないというのに既につらい。やるべきことは、何から手をつければいいのかわからないくらい、たくさんある。
それでも、沙苗さえそばにいてくれれば乗り切れる気がした。
ふざけた調子が、また急に消えた。ひとりごとのようにも聞こえたそれに、考える間もなく答えていた。
「すきだよ」
言って、後悔した。
剣持が俺の方をジッと見ているのがわかる。目は合わせない。合わせられない。
「翔!呑も!!」
「…………は?」
今の流れで、どうしてそうなる。
「お前そういう話全然しないからさー、酒入ったらもっとしゃべるかなー、とか」
「呑まないし喋らないし帰るし」
「わー、つれねぇー。夕飯つくんの?サナちゃんのために?」
「……つくるけど」
「いくら家事とかしてもらってるからって毎日飯つくるとか、健気だな」
「ほっとくと、まともに食べないんだよ」
課題の締め切り前の沙苗の口癖は"1日が48時間だったらいいのに"、"食べなくても寝なくても生きてられるからだがほしい"だ。
ほっとくにほっとけない。
食事の時間は沙苗と一番長く一緒に過ごせる貴重な時間。料理もすきでやっていることだ、苦に思ったこともない。
「でもまあ、すきな子に毎朝起こしてもらえるっていいよな。素直に羨ましいわ」
確かに、そうだ。
朝一番に、沙苗の声で、手の温度で、目を覚ますことができる。
確かに、幸せなことだ。
「あー、でも?後朝(きぬぎぬ)、ってわけじゃないんだっけ?それはそれで複雑?」
俗に言う、朝ちゅん。
手をだしたことなんて、一度もない。
「……一言多いんだよ」
頭を叩けば乾いた音がした。
いてっ、と声をあげた剣持に悪びれる様子はない。
そんな態度を見て、もうひとりのいとこのことをふと思い出した。
薫は、なんて言うだろう。
今朝の沙苗とのやりとりを思い出す。
3人で、なんて言わなければよかった。薫も気を遣って2人ででかけてこい、と言いそうな気がする。
どこか、ふたりきりでないことに、安心している自分が嫌だ。
テストが終われば夏休みだ。あってないような、夏休み。
本実習はまだ始まっていないというのに既につらい。やるべきことは、何から手をつければいいのかわからないくらい、たくさんある。
それでも、沙苗さえそばにいてくれれば乗り切れる気がした。