どこからどこまで
○あるようでないような8月
あたしの悪い癖は、思ったことを無意識に口にしてしまうことだ。
そして、自分の発言を振り返るのが遅いのだ。非常に。3日後、1週間後、もしくはそれ以上。思い返すのは大抵、シャワーを浴びているとき。ふとした拍子に思い出す。
"なんか新婚さんみたいだね"
穴があったら、いっそ埋まりたいと思った。正しくは、"穴があったら入りたい"。わかっている。敢えて埋まりたい。
なんてずうずうしいことを言ったんだろう、と。
あたしと翔ちゃんは、そういった関係ではないのに。あたしは翔ちゃんの彼女ではないのに。あたしは翔ちゃんのいとこなのに。
"自分が彼女になった場合も想像した?"
さこねぇのセリフを、急に思い出した。
考えなかったわけじゃない。翔ちゃんと一緒にいると、安心する。
そうだ、家族みたいに。一緒にいて、気が楽で。
考えなかったわけじゃない。ただ、考えが"恋人"という地点まで、及ばないのだ。
翔ちゃんはきっと、あたしのことを妹のように思ってるんだ。あたしだって、翔ちゃんのことをお兄ちゃんみたいに思ってるんだから。同じだ。
"新婚さんみたい"なんて、もう言ったらだめだ。あたしと翔ちゃんの仲を、そんな風にほのめかすことは、言ったらだめだ。
翔ちゃんは、すき。でも、そんなことを言いだしたら薫のことだってすきだし、きっとそういう"すき"なんだ。
今の状況は、さこねぇの言ってた通り、"変"。翔ちゃんに彼女がいないのは、あたしのせいだ。
翔ちゃんに訊こう、"彼女つくらないの?"って。
訊いてしまったら、あたしは身の振り方を考えなければならない。
あぁ、もう。性に合わないな、こういうことをグルグルと考えるのは。
今月の頭はテスト期間。単位がとれなきゃ再履修。再履修だけはごめんだ。
そしてそして、テストが終われば夏休みが始まる。