恋愛ターミナル


「仁科。悪いけど、これ納品行ってきてくれる?」


え。なんで私?


そう心で呟きながらも、「わかりました」と返事をした私は、小さな段ボール箱を課長のデスクまで取りに行った。


――重……。


見かけは小さくていかにも軽そうだけど、中身は金属製の部品だし、重くて当然。
取引先から、急遽用意して欲しいと言われたらしいその納品物を、私は会社の車に積んだ。

届け先は、車で15分程度の小さな工場。

苦手な運転を駆使して、やっとついた、とエンジンを切ると、営業スマイルをつくって段ボールを両手に工場を覗いた。

初めて来るここの工場は、どうやら自動車関係みたい。
作業服の人がちらほらと見えて、みんな仕事に真剣だ。


「あの。急ぎの部品、納品に伺いました」
「ああ! ありがとう。助かった。ちょっと待っててハンコ持ってくるから」


両手が空いて、ほっと肩の力が抜ける。
何気なく、受領書を持ったまま待たされてる間、仕事中の人たちを眺める。
すると、手前の車の下にもぐってたグレーの作業服の人が、カララとキャスターの音を立てて姿を現した。


「――――え」
「ぅわっ! え?! なんで?!」


私も声を上げてしまったけど、相手の方がよっぽど驚いたらしい。

私だってすごくびっくりしたけど、彼の方がそのキャスターの板から降りるときに滑って転びそうになるくらい驚いてる。


まさか、取引先の人だっただなんて。




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