恋愛ターミナル
なんで私、怒ってるの? なんでこんなに面白くない気持ちになってるのよ。
相手は別に彼氏でもなんでもない、ご近所さんじゃない。
だけど、平岡さんの生活を想像する度に、『もし私なら』ってやたらと考えちゃって……。
『もし、私が、彼の奥さんなら――――』。
――そんなふうに、今まで一度だって考えたことある……?
そんな思考に陥ってると気づいたときに、ふわっと体が宙に浮いた。
「……?!」
一気に変わる視界。
身長160センチになんて到底届かない私には、今まで見たことない景色。
自分がどうなってるのか、後ろを振り返ると平岡さんの顔が近くにあって、頭の中が真っ白になる。
そう思ってたら、すぐに元の慣れ親しんだ高さに戻された。
い、今の……なに?
唖然としたまま、ガードレールを跨ぎ終わった平岡さんを見上げる。
彼は青空をバックに、ゆうとくんのような、無垢な笑顔で言った。
「あ。あっちからだと坂んなってるから、越えづらいかと思って。んじゃ、行くか」
何食わぬ顔で、ひらりと自転車に跨ってスタンバイしてる。
いや、平岡さんはなんでもないことなんだろうけど、私(こっち)は結構衝撃なのよ!
背中から、まるで子供のように抱っこされたことなんて、今までに一度もないし。
軽々と持ち上げられたあの腕……作業服の中って一体どんな体してんの?
不覚にも、まだ鳴りやまない心臓を軽く押さえて、平岡さんが待つ自転車に腰を下ろした。
「ぅおしっ! 梓。ちゃんと掴まっとけ」
ここへ来るときのように、平岡さんは私の両腕を握って引っ張る。
違うのは、往路よりもきつくなるように、手を回されたこと。
さっきよりも全然近すぎて、平岡さんの背中に頬が触れる。
どさくさにまぎれて、そのまま寄り掛かってみると、なんだかとても心地よかった。
「梓」
「はい?」
「“もういっこの理由”」
「は――――」