恋愛ターミナル


――私、なにやってるんだろう。


仕事から帰って、スーパーで買い物をして、キッチンでミートソースを作ってる。
冷静になればなるほど、今までの自分とは程遠いこの状況。

誰かのために、手料理を振る舞うことなんてしなかった。

だって、家に帰ればいつも奥さんのお手製のものを口にしてるんだから、私がすることじゃない。

そう思ってたし、現に「作ったご飯を食べたい」なんて言われたこともない。
言われたとしても、きっと面倒でここまで動いてなかったと思う。

だけど、今の私はなに?


「――考えすぎ。だって、ゆうとくんの希望だもの。これきりだし。気にすることなんかない」


誰もいない部屋で、誰に言うでもなく、むしろ自分にそう言い聞かせて、ぐつぐつと煮込んでる鍋を見る。

「気にすることなんかない」。
そう言いつつも、頭の中で勝手に出てくるのは平岡さん。

汚い作業服で、ママチャリに乗って、風を切って笑う顔が。私の脳を、心を、占拠する。

小皿に少し取ったミートソースを、ふぅっと息を掛けてから味見する。


「うん。久々のわりに上出来」


自分の作ったものに及第点をあげると、ふと、今まで考えたこともないことを無意識に思う。


――もしも、私が結婚したら。

そうしたら、仕事から帰って来る夫のために、こんな感じで料理とかしてるのかな。
子供もいたら、家族で食べれるメニューとか考えて、お弁当も作ったりして。

休みの日は、自転車でどこかへ出かけたりして。

心地いい風と、自然に零れる笑顔と。

毎日毎日、同じことの繰り返しが、飽きもせずにむしろそれが、幸せだって感じる穏やかな日々を送れるのかな。

こんなふうに、いつもどこか“さみしい”って感覚も、どっかにいってしまうくらいの――――。


「あつっ」


鍋から腕にミートソースがはねてきた。その熱で、一気に現実に引き戻される。


――バカ。余計なこと考えてるからよ。

そんなことを夢見てどうするの? 自分はそんな素敵な奥さんには程遠いし、なにより、それが叶うはずないじゃない。

……私が想像してるのは、平岡さんの隣。

そして、既婚者である彼の隣には、すでに可愛い奥さんがいて、その間にはゆうとくんもいる。

どう考えたって、私の入る隙なんてない。


“気のせい”だと思える今のうちに、こんな想像やめなきゃ。




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