恋愛ターミナル
蓋つきの陶器の入れ物に、お手製のミートソースを入れて、103へと向かう。
ピンポン、とインターホンを鳴らすと、昼間のままのグレーの作業服の平岡さん。そしてゆうとくんが出迎えてくれた。
「あ、こんばんは。これ、約束の――」
「わぁい! ミートソースッ! いいにおーい!」
「あ、割れものだから気をつけて……」
「くぉら! ゆうとっ」
私が手にしていた、袋に入った今夜のご飯を、ゆうとくんはパッと取って奥へと走って行った。
そんな喜ぶ姿がやっぱり嬉しくて、それだけで私は満足した。
「それじゃ、私はこれで」
「え? あ……なんか、ほんとごめん。でも、ありがとう」
平岡さんに「ありがとう」と言われるのが一番嬉しいらしい。
そんな自分の気持ちには、もう完全に気がついてる。
だから、距離を置かなきゃ。
平岡さんは、不倫とか出来るような人じゃないっていうのもわかってるから。
「あずさおねーちゃんもおいでよー。いっしょにたべようよー」
「……え?」
あれ。名前……。
ああ、そっか。今日平岡さんに名前を伝えたから、それを聞いたんだ。
ゆうとくんにそう言われた私は、ニコッと笑顔を浮かべて遠慮しようと口を開きかけたときだった。
「あ。そーか。そうだな。別に麺はたくさんあるから、ウチで食ってけば?」
純粋な瞳で笑って言う。
その目に動けなくなってしまった私は、息をするのも忘れて固まったまま。
そんな私の手を引いたのはゆうとくん。
気付けば玄関に引き込まれて、そのまま結局平岡さんの家に入ることになってしまった。