恋愛ターミナル


「ごちそうさまでしたっ。ねぇね! ボールであそぼ」
「ばかやろうっ。家ん中はだめだっつってんだろ!」
「ええー……じゃあー……」


食事を終えても、ゆうとくんのパワーに負けて、ずるずると長居をしていた。
トランプを出してきたり、車のおもちゃを説明してくれたり。
ひとしきり遊びに付き合うと、ゆうとくんは満足したようで、疲れて眠ってしまった。


「寝ちまったな」


平岡さんは呆れたように言うと、すっ、ともう結構大きな体のゆうとくんを軽々抱き上げて、奥の部屋に連れていく。

ほんの少しの間、ひとりきりになったリビングを改めて眺めた。

ベージュのカーテン。
カーテンレールに、2着の作業服がつるされてる。自分で洗濯したっぽい。

食卓テーブルには、余計なものとかも置いてない。それは部屋自体も同じで、あとはテレビと棚と、小さな二人掛けソファが置いてあるくらい。


きっと、奥さんが余計なものを置きたがらない性格なのかな。まぁ私も基本的にはそんな感じだけど、それよりもさっぱりとした部屋。
シンプルな感じが好きなんだ。


――でも、そういう部屋でよかったかも。

例えばもし、水玉や花柄のカーテンだったり、食卓に綺麗な花が活けられていたり。
部屋じゅう、ゆうとくんのものや、家族の写真がちりばめられているような部屋だったら。

目のやり場に困って、こんなに長居なんか、きっと出来なかったし。


「はー。いやいや。子供って、体力すげーのな」


部屋を見渡し終えたところに、ガチャッとドアの音と同時に平岡さんの声がした。
ドキリとして、少しだけ姿勢を伸ばすと、なるべく落ち着いた声色で返事をする。


「ほんと、元気なんですね」
「おかげで助かった。サンキュな」
「いえ……じゃあ私もそろそろ」


目を伏せて、平岡さんを見ないまま、椅子から立って私は言った。
玄関で見送りにきてくれた彼を、一度だけ目を合わせてからぺこりと頭を下げた。


「私がいて、寝る準備ができませんでしたよね。すみません。じゃあ……」
「いや。いつもこんな感じだし。こっちこそ、ごっそさん」


視界の隅にグレーの色が入るくらいのまま挨拶を済ませると、平岡さんに背を向けて、振り返ることなく玄関を出た。



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