恋愛ターミナル
照れ隠しで、少しぶっきらぼうに平岡さんに言った。
「……どうかしましたか?」
「いや、コレ。返し忘れてたから」
そう言って、私に渡された紙袋には、今朝の綺麗に洗ってくれたタッパー。
「ああ……。今日の容器と一緒のときでよかったのに」
「え。ああ、そう言われれば――……」
私に指摘されて、頭を掻いてバツが悪そうに苦笑してた。
まるで注意された子供のような仕草と表情が可笑しくて、私はつい声を漏らして笑ってしまった。
「その顔。今日もしてたな」
急に平岡さんが言うものだから、なんのことかわからなくて、きょとんとした顔で彼を見た。
「昼。坂下りたあと、爆笑してたろ」
「え? ああ、あまりに面白かったんで、つい」
「黙ってたら美人だけど、笑った顔は可愛いのな」
「――――え」
なんか、急に平岡さんが違う。
今まで、子供だ、少年だ。とか、いいお父さんだ、って思って見てたけど、違う。
――男の人だ。
いつの間にか、数十センチの近い距離に立つ平岡さんを見上げると、彼も私を見下ろしていて。
真剣な顔をした彼が、私の瞳に映ったかと思えば、グレーの作業服にたちまち覆われていた。
――オイルのにおい。
けど、微かにあの部屋のにおいが――……平岡さんの香りが混じってる。
どうしたんだろう。なんで、私を抱きしめてるの?
こういうシチュエーションは、自分で言うのもなんだけど、初めてじゃない。
でも、そんな慣れた状況にもかかわらず、心の中は裏腹で。全身が脈打つ感覚で、ドキドキと心臓が跳ねている。
私の体にまわされてる彼の腕をそっと掴んで、少し離れると、ゆっくりと顔を上げた。