恋愛ターミナル


幸い、昨日は平岡さんちの声が聞こえてこなかった。

そのまま静かに夜を過ごして、土曜の今日。
これがまた幸いなことに、亜美に誘われていたから家にいなくても済む。

いつも私は待ち合わせの時間に余裕を持って出るけれど、今日に限ってはかなり早めに家を出た。


――あのアパートから、少しでも離れたくて。


「梓! 早めにきたのに、それより早いなんて! ごめんね、待った?」
「ううん。今日はたまたま。ちょっと早く出過ぎたのよ」


待ち合わせ場所に現れた亜美は、いつもと同じ、ほんわかした笑顔で私の元にやってきた。
女性である私ですら、この亜美の笑顔には癒されることが多い。


「――彼氏、幸せモンだね」
「えっ」
「凛々から聞いてる」
「……なーんだ。ちゃんと報告しようと思ったのに」


本当、幸せだよ。
ちょっとしか会ったことはないけど、女の直感。あの彼は、亜美のこと大事にしてくれる。
それに、亜美もあの彼を大事にすることは、長い付き合いで言い切れる。間違いない。


「だけど、梓にそんなこと言われるなんて、思ってなかったなぁ」
「なにが」
「『彼氏が幸せ』だとかって。梓、話は聞いてくれるけど、結構“我関せず”みたいなとこあるから」


――確かに。言われてみたら、今までそうだったかも。

冷たい言い方聞こえるかもしれないけど、人の恋愛は、自分には直接関係なかったし、なにより自分に置き換えて考えることなんかなかったから。

だって、私、フツーじゃないんだもの。



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