恋愛ターミナル
「そうなんですね。よし。これから気をつけます」
「『気をつけ』……?」
「あ、私の家、あそこの二階なんで」
ものすごい不思議そうな顔をして聞き返す晃平さんに、酔った私は気付くはずもなく。
自分のアパートを指さすと、最後にもう一度深々と頭を下げた。
頭を上げて、踵を返そうとしたときに手を掴まれた。
「えっ」
「いや、番号交換してもいい?」
「え? あ、はい……いいですけど……」
突然の申し入れに少々混乱しつつも、断る理由もいやだという思いにもならないから、バッグから携帯を取り出し赤外線通信をする。
いままで何度か一緒に遊んだりしたのに、連絡先聞いたことも聞かれたこともなかったなぁ。
こんなタイミングでまさか番号交換することになるなんて……。
「可笑しい……」
「え? なに?」
「あ、いや。その、初めて知り合ったわけじゃないのに、今こうして連絡先知るなんて……と思いまして」
「……ああ。本当だね」
【通信終了】と表示が出て、携帯をカバンにしまう。
「それじゃ」と別れを切り出すと、晃平さんが静かにほほ笑んで私に言った。
「オレに出来ることがあったら、いつでも連絡して」
どうしちゃったっていうんだろう。
晃平さんに会うのはもう何度めかなのに。それなのに、今みたいな笑顔が初めて見る気がする。
しかも、それでドキドキとしてしまってる私の心臓。なんて単純で現金なの。
数時間前には他の男の人を想って泣いてたくせに。
ああ。きっと涙腺が決壊したように、今は感情も決壊してるんだ。
じゃあ今日限りであろうこの鼓動は、素直にときめいておこう。
明日になったら、元に戻ってる。
でもきっと、裕貴さんのことで胸は痛めてはいないはずだ。
「……ありがとうございます」
――――晃平さんのおかげで。