恋愛ターミナル

「――っ」


途端に、白い胸元に紅い痣をつけられる。

その印は今まで滑稽に思ってた。
付き合ってきた彼らの独占欲の表れだと感じては、私自身誰のものでもない、と。

心はどこか、冷めていたから。

でも、今は……平岡さんに刻まれた印は、言葉でどう例えればいいのかわかんない。
切ない? 苦しい? 嬉しい?
欲しいものが手に入った喜びと、それが失われたときを想像する恐怖。

歓喜と悲哀が入り混じって、自然と目に涙が浮かぶ。


「……悪い」


その潤んだ瞳を誤解して、平岡さんが謝ると、私は自ら彼に抱きついた。


「……梓。それっていいのか悪ィのか……」
「――――して」


涙目で上目遣い、そして「して」なんて、こんな下心ありそうな女を演じようとしたわけじゃない。
自然とそうなってしまった私は、ちょっと不本意で、平岡さんの胸にまた顔を埋める。

奥から、カチャン、と玄関の鍵がかけられる音がして、不意に顔をそちらに向けた。
すると、平岡さんの声が降ってくる。


「もう、やめねぇぞ?」


頭を撫でた手が、胸元まで伸びてる髪を辿り、左胸を大きく包まれる。
それと同時に目を閉じて、キスの続きを始めた。

巧みに刺激を与える平岡さんの手は、いつの間にかホックを外して直に触れられる。


「ふぁっ……んっ」


その感触で、思わず艶っぽい声を上げてしまった私に、彼の人差し指があてられる。
そして低音で「声」とひとことだけ言うと、そのまま抱きかかえられてしまった。

迷わず歩き進める平岡さんに、『ああ、同じ間取りだもん』とどこかで納得しながらも、彼の腕の中でドキドキが止まらない。

長い足だとすぐに辿り着いた、正面のリビングに続くドア。
そのドアを開けることなく、すとん、と体を降ろされた。



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