恋愛ターミナル

看板に背を向けて、俯きながら“いいわけ”を考える。

ここ、ノースタワーはショップがたくさん入っている。
その8階にあるのが、ここ、レストラン街。

と、なると、やっぱり自然なのは、『仕事終わって、ぶらぶらと買い物をしていたら、晃平さんのお店を思い出して――』というのが妥当だよね。

ぶつぶつと一人小さく頷きながら言う私を、行き交う人がチラ見しながら避けて行く。


はっ。こんなんじゃ、晃平さんじゃなくても、私、“怪しい人”だと思われてる!


そう気付いたのと同時に、肩に手を置かれて「ぎゃあ」と声を上げた。


「……ごめん。そんな涙目になるほど、驚くとは思わなくて」
「いいいいいい、いえ……こちらこそ……もも申し訳ないでで、です」


ホラーとかドッキリとかに滅法弱い私。
不意に触れられたことで、思わず泣きそうになってしまった。

そして、予想を遥かに上回る、最悪な再会パターン。

もう、消えてしまいたい……。

そんな思いから、肩を竦めて顔を上げられずにいると、晃平さんが笑った。


「ははっ。口まわらな過ぎじゃん?」


その笑いに救われて、私がゆっくりと顔を上げると、晃平さんが手招きをして「おいで」と店内に案内してくれた。


外側からは見えない奥にも席があったみたいで、晃平さんは一番奥にエスコートしてくれた。
そこに辿り着くまで、初めは晃平さんのコックコートの広い背中を見ていたけど、途中でその背中は私だけの視線を受けているわけじゃないことに気付いた。

通り過ぎて行くテーブルについていた女性のお客さんのほとんどが、瞬きもせずに晃平さんを見上げ、横切ってもなお、その背中を追うように見つめているのだ。

挙句、お客さんだけじゃなく、ホールのスタッフまでもが晃平さんを見てる。

なんだか自分に向けられてるわけじゃないのはわかるけど、すごく緊張した。



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